《5》

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「えぇ」と忠勝は頷いた。 「槍は武士(もののふ)のたしなみですから。槍ほどではありませんが、剣も少々遣いますよ、俺は」  酒井忠次が大口を開けて哄笑した。 忠勝は怪訝に思い、忠次を見た。 「何故笑いますか、酒井殿」 「忠勝よ」 忠次はひとしきり笑い、目元から漏れた涙を指ですくいながら言った。 「褒められた時は1度謙遜し、相手を褒め返すのが作法なのだ。槍も遣うが剣も遣う、と返すとは、まぁ若いゆえにな。武骨は仕方ないか。それにしても、康政はしっかりしておるなぁ」 「いいえ、酒井殿」 康政が少しだけ頭を下げて、言った。 「私は小賢しいだけです。父上にもよく言われます。小さくまとまり過ぎず、大きく構えよ。武士はそれくらいがちょうどよい、と。その点で言えば、忠勝殿からは大きなものを感じます。私が見習うべきものを沢山持っておられる」  溌剌とした表情で物を言う榊原康政はなんとも爽やかだった。 忠勝は康政に好感を抱いた。 「ところで酒井殿」 忠勝は言った。 「本日はどのような用向きで俺と康政殿は御館様に呼び出されたのでしょうか」 「そうだ、信長だ」 突然思い出したように、酒井忠次が苦々しい表情になり、口を開いた。 「まぁ、御館様から直接聞くがよい」
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