《5》

6/22
637人が本棚に入れています
本棚に追加
/387ページ
 乱世に立った主君を信じている。が、いかんせん領内で動員できる総兵力は3百をやっと超えた程度だ。 今川の2万、織田の1万と比べると、あまりにも小さい。 松平家が戦国乱世を生き伸びるには、今川、織田、どちらかと盟を結ぶしかないのである。 「織田信長は同盟交渉に応じるかわりに、一つの条件を提示してきよった」 家康が言った。酒井忠次が顔をしかめ、露骨に嫌な表情を浮かべる。 「20名のみの供回りで尾張の領内に入ってこいというのだ。しかも、20名はすべて20歳以下の者で揃えろだとよ」 「ふざけておる」 酒井忠次が叫び、畳に拳を打ちつけた。 「田楽狭間の快勝で増長しよってから。こんな一方的で傲慢な条件提示があるか。御館様、尾張にはわしも同行しますぞ」 「忠次、お前は35歳じゃ。信長の出した条件からは漏れておる」 「ですから、御館様」 忠次はかぶりつくように続けた。 「昨日も申しただろ。このような胡散臭い、ふざけた条件を呑む必要はない、と。20歳以下の者ばかりの供回り20名。なんじゃ、それは。どんなたくらみが尾張の領内に張られているかわからぬ。供回り百名。わしの総指揮で清洲に出向く」
/387ページ

最初のコメントを投稿しよう!