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家康は苦笑し、「いくさをしに行くのではないぞ、忠次」と言った。
「事と次第によってはいくさも辞さぬという強い姿勢を見せた方がよい」
忠次が言った。忠次は喋れば喋るほど熱くなっている。
「御館様よ、同盟であって従属ではないのだぞ。あくまでも対等の同盟なのだ」
「従属する気など最初からない」
「ならば」
忠次が両の手で畳を叩いた。
「こんなふざけた条件は突っぱねなされ」
家康が右手を忠次の顔の前に出した。
「忠次よ、わしはのう、見せてやりたいのよ、信長に」
「何を」
「人質として織田家で過ごした2年間から比べて大きくなったわしの姿を」
家康は言いながら、快活に笑う。忠次は押し黙り、家康をじっと見つめている。
「それに、未来へ拡がる無限の力を見せつけてやりたい。おそらく、信長もそれを見たがっておるのであろう。それゆえ、20歳以下の者ばかりの供回りなどと言ってきておるのだ」
暫し、四者が黙る。開けたままの障子の向こうから、ホトトギスの鳴き声が聞こえてきた。
家康が康政、忠勝を順番に見やり、力強く顎を引いてから、「未来に拡がる無限の力」と言った。
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