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何故今更なのだ。死んだ女の名は、エリカ。男の一つ年上の先輩であり、男の憧れの存在であった。しかし、彼女は、妻子ある課長と付き合っていた。男は一年以上前のことを回想していた。
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「あのね、木村君にお願いがあるの。」
彼女はそう言うと上目遣いに見てきた。男はエリカから、付き合っていることにしてほしいと言われた。
「私が課長と付き合ってるって知ってるよね?私が課長とその・・・そういう仲になる時に、私に彼氏がいるかって聞いてきたの。もちろん、私は居ないって答えたの。そうしたら課長、私とは付き合えないって。気持ちはうれしいけど、本気になられても困る。彼氏がいて、自分とは火遊びなら考えてもいいって。」
男は、課長を心の底から軽蔑したが、女に期待を持たせない狡猾さには感心した。
「だからね、つい、木村君と実は付き合ってます、って言っちゃったの。」
男は、悲しかった。そんな扱いを受けても、エリカのことが好きでたまらなかった。男は、その提案に同意した。
しかし、彼女は去年のクリスマスに自ら命を絶った。彼女はクリスマスに課長が家族で楽しそうに外食している所を目撃してしまったのだ。「バカね。私。本気にならないって決めたのに。」
そう男に言い残して、ビルの屋上から身を投げた。
男は彼女に本当の気持ちを伝えるために、指輪を用意していた。
「課長なんかと付き合うのをやめて、僕と結婚してください。」
彼女はゆっくりと首を横に振った。どうして、僕じゃだめなんですか。どうして。
彼女はその夜に男と会った帰り道、課長家族を目撃してしまったのだ。
男はしばらく立ち直れなかった。最後まで自分の気持ちが届かなかったこと、彼女を失った喪失感にうちひしがれていたのだ。そんな男をずっと励まし続け、支え続けてくれたのが、同期の女性であり、今の彼女だ。男はだんだんと心の傷が癒え、つい最近になってようやくその同期の女性と付き合うようになり、初めてのクリスマスだったのだ。彼女と付き合うようになって、男の周りで妙な現象が起こり始めた。最初は理由がわからずに戸惑い、恐れていたが、その現象を誰が起こしているのか、男は知ることとなる。
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