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女は叶わぬ恋をしていた。
相手は妻子ある会社の上司である課長。
遊びでもいいと割り切っているつもりだった。
だけど女は本気で彼を愛してしまったのだ。
クリスマスはきっと彼は家族と過ごすのだろうと考えると、悲しくて涙が止まらなかった。
誰も居ないと油断していた。ガード下のぼんやりとした灯りが見えるまでは。
そこには、はっとするような美しい女が屋台を構えており、手招きをしていたのだ。
怪しげなその女から目を離すことができなかった。
「ちょっとそこのお姉さん。お姉さんは、道ならぬ恋にお悩みだね?」
図星を突かれ少し驚いたが、女は
「占いとかなら、いいです。」
と断り、立ち去ろうとすると、その美しい巫女装束の女は真っ白な卵を差し出してきた。
「お姉さんは第四の色を見ることのできる人と見た。」
「第四の色?」
「そう、第四の色。この世の中は三原色と言って、赤、青、黄色でできているだろう?つまり第四の色はそれ以外の色ってことさ。」
女はその巫女の女が薄気味悪くなって、後ずさった。この人ヤバい人なのだろうか。
「これは夜の卵。願いを叶えてくれる卵さ。持ってお行き。」
やっぱり商売なんだ。結構ですと断ると、さらに卵を差し出してきた。
「お代はいらないよ。」
そう言われ、もう面倒になり、卵を受け取ってしまった。
その場を去ろうとすると、
「ただしタダではないけどね?」
と言われ、ますます気持ちが悪くなり、足早にその場を去った。
そんな卵など、どこかへ捨ててしまえばよかったのだが、どうもそんなことをすれば呪われてしまいそうな気がして、女はその卵を持ち帰った。願いが叶うのなら、課長を私にください。
奥さんと別れさせて、私にください。
だが、その願いは叶わなかった。
職場の後輩からプロポーズを断ったクリスマスの夜、女は見てしまった。
課長の家族が楽しそうに外食している姿を。
なんだ、願いなんて叶わないじゃない。女は卵を課長の家に投げつけた。
そして、その後、ビルから身を投げたのだ。
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