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都内から少し離れた駅前にある静かな喫茶店。
「暑いわぁ。ホンマに暑いわぁ。」
私の前に座っているラッキーがぼやいている。
「おっちゃんもね、まさかと思っていたよ。地球温暖化っていうけど、そんなん言うほどやんって。・・・でもやばいわ。実際に最近のこの異常気象具合を肌で感じてみるとやばいわ。」
ぜいぜいとラッキーが息を荒げている。
「なんていうの毎年夏が来るたびに「え?夏ってこんなに暑かったん?」って思わへん?「去年絶対にもっと涼しかったよ」って。おっちゃんから言わしてもらうと、どう考えてみても毎年「去年の暑さを更新」しているわけよ。やばない?これやばくない?毎年熱くなってるやん。確実に地球の温度が高まっているわけやん。」
うぉんうぉんとクーラーの音が聞こえ、頭上で風車のような木製のプロペラが回っていた。
私は文庫本片手にラッキーのぼやきを無視している。周りに他のお客さんはいなく、個人経営の純喫茶は、店主のおじいさんが店の奥に引っ込んで甲子園を見ているため、ラッキーが話すのをわざわざ止める必要もなく楽であった。
「暑いなぁ。暑いなぁ。なんやろうな。子供の頃ってこんな炎天下を走り回っていたわけやろ?それってすごない?だって人が生きていけるレベルじゃないやん?それはおっちゃんの時代がまだ涼しかった夏だったのかもしれへんけど・・」
そう言うとラッキーは店の外をじっと見つめた。喫茶店に面している車道は、滅多に車が通らない。そして道路を挟んで反対側には公園があった。小学生くらいの子供たちが数人、野球をしている。
「でもな、ああやってこの時代でも元気いっぱいの子供たちがおるわけやねん。・・・あいつら、なんなん?」
チラリと文庫本から視線を外して彼らを見る。子供を「あいつら」呼ばわりしながら、ラッキーは相も変わらず外を見つめていた。
どこかそれは過ぎ去ってしまった時代を懐かしむような、もしくは取り戻したがっているようにも映る。が、私はいちいち反応しない。そんなことよりも目の前にあるこの本だ。
最近話題のミステリー小説。一週間前に買っていたのだが、時間がなく今まで読むことができなかったのだ。
「おっちゃん暑いの苦手やねん。だから日が暮れるまではここにいような?」
とラッキーも言っていることだし、この店にいる間に読破してしまいたい。
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