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「斉藤さん。新しいお客さんが来ています。」
久利生直子(くりゅうなおこ)が言った。赤いフレームのメガネをかけ、きつく尖ったような目が特徴的な女性であった。
「え?本当に?もう15時だっけ?」
斉藤が答える。40過ぎ。無精髭の目立つ野暮ったい姿。オフィスの椅子にもたれかけ競馬新聞を横に広げたその姿に久利生は露骨に非難の目を示した。
「もう15時です。厳密には20分ほど過ぎています。」
わざとらしく、左手の腕時計を斉藤に見せる。
「いやぁ、どうだろうな。俺の体感だとまだ2時前だけど。」
「体感?」
ピクリと久利生は眉を動かす。徹底した合理主義の久利生と、何かにつけて大雑把な斉藤は水と油。常に何をするのにも、何を言うのにも正反対であった。
「そうそう体感。飯を食うのが12時だろ?で、俺の腹の調子的にはまだ2時間しか経ってないわけよ。だから15時っていうのはちょっと無理があるっていうか・・・ないわぁ。」
と、まるで久利生が非常識であるかのような言い方をして、斉藤はペラリと新聞をめくる。立ち上げる気配はなかった。
「何をおっしゃっているんですか?とにかく顧客があなたを待っているんす。」
「でも約束したのは15時だろ?今は14時だから。」
口を尖らせながら斉藤がいう。その物言いに久利生はきつい目をさらに尖らせると、ヒステリックな声をあげた。
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