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 凍えるほどの冷気を身に纏い、山頂から海を見下ろす。今にも駆け下りそうになる本能を必死に押さえ、彼との約束を思い出す。  彼は山の民とは異なる色を持っていた。私には彼の言葉が理解できたが、彼には私の言葉はわからないらしく、音を発しても彼は困惑するばかりだった。  「君はどこから?」と問われ、小さく見える山を指差すと、悲しげに顔を歪ませた。あの山で家族が命を落としたのだと言う。私の手をとり、いつか自分もあそこへ行かねばならないと、あきらめたように笑った。細められた瞳は私の良く知る海と同じ色で、溶け込みたいと、そこに還りたいと無性に焦がれたのを覚えている。  彼は言った。いつか時がきたら、麓まで降りてきて欲しい。そして共に、と。虫の知らせで彼の来訪を知り、今私は彼の元へ行かねばならない。  駆けよう。木々を薙ぎ倒し、あの時のように。彼の住む土地まで一気に駆け抜けよう。それが私の使命だから。
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