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(ええーー……)
正直なところ。
申し訳ないが。
そんなん言われても。ーーである。
混乱を極め、貝になるしかない夕に、町田の舌はますます回転した。
有川と違って男だが、おとなしそうな外見の夕に「こいつなら何を言ってもOK」と判断したらしい。
ヒートアップが留まることを知らない。
「午前中に届けろって厳命したのに遅れやがって! これは完全に契約違反だ! 俺は絶対に金払わねぇからな!」
町田が拳を振り上げ、玄関の門を叩く。ガシャンと乱暴な音が響いた。
「それだけじゃ済まさねぇぞ。責任を取れ! 俺の結婚を台無しにしやがったんだからな!」
唾を吐き散らしながら、罵詈雑言を喚き散らす。
騒ぎを聞きつけた近所の住人が、窓や扉の隙間からこちらを覗いているのが分かった。
だが誰一人、間に入ろうとはしない。同情や好奇の視線を送るだけだ。
「二度と柴犬急便なんて利用してやらねぇから覚悟しやがれ! 他の業者ならきちんと時間内に来てくれるのに、最低の会社だな柴犬急便は! 何で潰れないのか不思議なくらいだ!」
町田は夕に、ひたすら誹謗中傷を浴びせかけた。
夕が何も言い返せないと知っているからだ。
町田のボルテージがとうとう頂点に届く。
「何とか言えこの無能! 土下座して詫びろ!」
その、瞬間。
夕の中の何かが切れると同時に、彼は傍らに置いてあった台車を引っつかんだーー。
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