14人が本棚に入れています
本棚に追加
(……って、この光景見るたびにマジで思う)
羽篠 夕(はしの ゆう)が現場に到着したとき、一台のトラックの前では、二人の男性が静かなる慟哭を上げていた。
「疲れた……」
「もうイヤだ……」
「何で朝の八時から配送スタートしてんのに、全然終わんないんだ……」
「十一時回っちまったよ……午前中終わっちまうよ……」
「もうイヤだ……」
「疲れた……」
運送用のニトントラックにもたれかかりながら、男たちは束になっている配達表を仕分けしていた。
トラックのコンテナには、唐草模様の風呂敷を背負ってぴょーんと走っている柴犬のイラストが描かれてある。夕がバイトしている「柴犬急便」の、特徴的なトラックだ。
だが、そのキュートな外見とは裏腹に、中には夥しい量の荷物が積まれていた。
(えぐい……)
来て早々、うんざりした。
すると男の片方が夕に気づき、
「あれー羽篠くんじゃん!」
パッと笑顔になって手を上げた。ただし目は瀕死のままである。
「水嶋(みずしま)さん、垣野内(かきのうち)さん、おはようございます」
「オハヨー。羽篠くん、今日は三丁目の担当じゃなかったっけ?」
「三丁目が一段落したんで、こっちのヘルプに入れってセンター長からお達しがありまして」
途端に水嶋と垣野内ーーベテラン配達員両名の顔が明るくなる。それでも目は瀕死のままではあるが。
「うわー助かる! センター長め、珍しく空気読みやがって! 羽篠くん優秀だから本気で有難い!」
いえいえそんな、と夕は謙遜する。
「またまたー。評判だよ? 物覚えはいいし、仕事早いし、顔は可愛い系イケメンだし、何よりいつも優しくて丁寧に仕事してくれるって」
おだてる水嶋に、夕は照れくささとはまた別の居心地の悪さを感じた。
最初のコメントを投稿しよう!