大体こんなことのくりかえし。ーとある配達員の長い一日ー

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 垣野内が言った。 「わざわざ悪いね羽篠ちゃん。この辺、医者だの会社経営者だのがたくさん住んでるから、とにかく多いわけよ。クソお歳暮が」  十二月に入ると、お歳暮のシーズンだ。  この日本の悪しき風習(このバイトを始めるまではそんなこと露ほども思わなかったが)のおかげで、この時期、運送会社は大わらわのてんてこ舞いなのである。  ネット通販の普及やお取り寄せブーム、その他もろもろの理由で、運送会社が配達する荷物は年々増加の一途を辿っていた。  ただでさえ多い荷物に、秋のうちに注文されたお歳暮が一気に追加される。  当然、配達員の負担は激増する。  ゆえに短期のアルバイトを雇うわけであるーー夕も、そのうちの一人だった。 「オレ、この国のえらいひとになったらお歳暮なんつークソ風習廃止するんだ……」 「いいですね。俺、投票します」  下らない軽口を叩きながらも、水嶋の手は素早く動いて夕に任せる荷物と配達表を仕分けする。さすがプロである。 「羽篠ちゃん、この辺の地図いる?」  垣野内がそう言ってくれたが、夕はやんわりと断った。このエリアの地図は頭の中に整理された状態で入っているからだ。 「スゲーな羽篠くん。じゃ、これ頼む。全部午前中の指定だから」 「……あと三十分しか無いっすね」  現在時刻は十一時三十分である。むごい現実に、ちょっと生き返った水嶋の目が見る見るうちに死んでいった。 「うん。そう。……ごめん。ほんとごめん。がんばって」 「がんばりまーす」
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