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「垣野内さん、次はどちらに?」
「次はこれだけど……有川ちゃん、ちょっと休んだら? 八時からずっと走りっぱなしじゃん。疲れたろ?」
基本的に、配達員に休憩という概念は無い。
荷物を届けるために、トラックで自転車であるいは徒歩で、絶えず移動し続ける。
だからこそ合間を見つけてーー時間的には間隙を縫って、という感じだがーー休むのが大事なのである。
だが垣野内の提案に、有川は笑って、
「へーきです!」
と辞退した。
胸に手を当て、うっすらと汗が浮かんだ額を輝かせながら、きらきらの目で答える。
「午前指定のお客さまがまだまだいらっしゃいますし……ひとつでも多くお荷物をお運びしたいですから!」
(まぶしい……)
新人さんならではのフレッシュでまっすぐな言葉。想い。生気あふれる瞳。
このバイトを始めてから二週間ほどの夕でも、有川の心意気はまぶしく感じられた。
(こういう新人さんは、貴重だろうな)
だがベテランの垣野内や水嶋は、ちょっと困ったような笑みを浮かべていた。
「そっか……。じゃあ、がんばって。でも無理しないでね」
「はい!」
水嶋が有川に、小さめの荷物をいくつか渡す。
「こっちはクール便で、こっちはなんか貴重品? みたいだから気をつけてね」
「分かりました!」
水嶋が地図を広げ、分かりやすくルートを説明すると、有川が再び走り出した。お世辞にも俊足とは言えないが、本気の走りだった。
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