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「ありがとうございましたー」
最後の荷物を届け終わると、腕時計に目にやった。
正午、ーーの三十秒前。
(勝った……!!)
謎の勝利感が夕の口元をほころばせる。誰と勝負しているのか。客か時の流れかそれとも自分自身か。
受取証明のサインや印鑑をもらった配達表をポケットにしまうと、さっさと配送トラックが駐車している場所に戻った。
まだまだ荷物は残っている。勝利に浸れるのは一瞬だけだ。
だが途中で携帯電話が鳴った。相手は水嶋だった。
『羽篠くん、有川さんがまだ戻ってこないんだ。悪いけど様子見にいってもらえる?』
そう頼まれ、有川が最後に向かったであろう住所を言われる。
何かあったのだろうか。
夕は踵を返した。
この辺りは住宅街の少し入り組んだところで、少々迷いやすいエリアだ。道も狭いから、自転車やバイクなどにも接触しやすい。
(事故に遭ったりしてないといいけど……)
心配しつつ、空っぽになった台車を押す。ガラガラとやたら耳障りな音。何も入っていない台車はうるさいのだ。
角を曲がると、すぐに有川の姿が目に入った。
(よかった、いた)
そう安心したのは束の間だった。
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