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暗め配色の内装。その部屋は装飾過剰な木製椅子と、そこへと繋がる赤に金の刺繍の絨毯が敷いてあるだけのシンプルな場所。
今、ここには二つの存在が向かい合う形で互いの顔を見合っていた。
「そろそろ、諦めたらどうだ・・・・・・勇者?」
加装飾な椅子に脚を組んで深く鎮座する仮面をした男は、対面する。持っていたであろう鈍い銀色の剣を支えとして倒れぬ様、片膝を付く鎧の男へと問う。
息を絶え絶え切らしながら睨み付けてくるその眼光にはまだ諦めは見えなかった。
「はぁ・・・はぁ・・・、諦めろ・・・だと?この私に何を諦めろと言う?すでに何もかも諦め、魔王・・・貴様を倒す事だけを目指してきた私に・・・」
勇者という男は疲労にまみれる表情の中に少しの嘲笑が紛れた。
「ふん、それは大層な心構えだな。皆の為、自身を犠牲にしてでも魔王を倒し、世界を平和にして自分は英雄として皆に迎えられる。・・・それで?」
仮面の男、魔王と呼ばれる男は気ダルそうに椅子から立ち上がり、勇者へと仮面の奥から覗く冷えた視線を向けた。
漆黒の夜を思わせるマントが翻り、人型の体がゆっくりとカツンと音を立てながら背を伸ばす。
その瞳からは、到底同じ人へと向けられる様な感情はなく。物を見ているかの様な無機質な確認にも似た、強制的な投げ掛けが見えた。
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