序説 魔族の王

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   その顔は、傷一つ無い整った人間の若者の顔。 まるで心の奥を覗き込み、呑み込む黒い瞳は白い肌から浮いて見える。 「勇者・・・・・・お前は勘違いをしているよ。」 未だ押さえ付けられている勇者にさらに近付き、その顔を見せ付けるかの様な仕草で、片手で自分の顎下から掴む。 「どうだ?お前が想像していた絶対的な世界悪の顔立ちだったか?それとも、今まで信じてきた魔王像からは想像出来ない位お前達と似た顔をしていたか?」 魔王は動けぬ男の瞳が、呆気に取られていても自分を見ているのを確認して話を続ける。 「仮に・・・・・・、お前がこの魔王を倒し、国に無事戻ったとしよう。確かにその時にはお前は今まで成し遂げられなかった魔王を討伐した者として、周囲から讃えられるだろう。上手くいけば英雄として像の一つは建ててもらえるかもなぁ・・・・・・」 勇者との距離を取り、謎の力に押さえつけられていた身体が開放され、力無く倒れ込んだ勇者を見下ろす形で立ち止まる魔王。 「・・・・・・だが、そんなものは一時的なものにしかならない・・・。いくら魔族を統治する俺を倒したところで、魔族自体がキレイに丸ごと消える訳じゃあ無い。 結局は、次の新たな魔王が今までの様にお前達人間を襲うだけのお粗末な展開だ・・・。 そんな時、お前を讃えていた連中はどうするだろうな・・・?」 戦いの疲弊と、魔王との圧倒的な力の差に為す術も無く倒れる身体は勇者から言葉と気力を失っていく。 「間違いなくお前に助けを乞い、またお前を魔王の元へと向かわせるんだろうな・・・・・・。死ぬか、戦え無くなるまで・・・・・・・・。 その時、お前は・・・」 ドサッと、立ち上がろうとしていた勇者の体が地に落ちる。 同時に意識も無くしながら。 口にしようとした言葉を呑み込み、魔王はまた玉座へと腰を降ろす。 浅いため息を吐き、首を鳴らす。小さく愚痴を溢しながら・・・ 「まったく・・・・・・魔王ってのは面倒な役目だな・・・」
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