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さて、と堅苦しく頭に被っていた王冠代わりの金輪を外し、乱れた髪を整えた辺りで玉座の隣に立つ存在に気付き視線を向ける。
「これも魔王様の役目ですので余り小言を挟むのはお止め下さい。配下の者が聞けば指揮に影響致しますので。」
いつの間にそこへ立っていたのか、声の主は機械的な単調さでそう言い、玉座の側から魔王を見下ろしていた。
「イエラ・・・。お前いつからそこに居たんだ?」
魔王がイエラと呼ぶ人の姿の女性・・・。彼女は、この魔族の国の王直属の側近であり補佐である唯一の存在。
黄金の髪が端整な顔立ちの左半分を隠し、覗く右瞳からの薄暗い灰赤色が方眼鏡を通して潜む。
身体のラインをなぞる、雪の様な白のローブとその上から垂れ下がる黒地に赤の刺繍の施された肩掛けが、応えというかの様に静かに揺れる。
歴代の魔王達は、側近、補佐共に複数配置していたが、近代の・・・つまり今の魔王が指命したのは彼女1人だけだった。
魔族全ての統括をしている魔国の王の補佐を1人でこなす彼女の力量は推し量るまでもないだろう。
そんな彼女は、魔王のいつから?という質問に対し、モノクルのレンズを軽く持ち上げ答えた。
「そうですね、正確には魔王様が『お前は勘違いをしている』と仰った辺りからですね。魔王様がそこまで優説に語られる方だとは思いませんでしたので、つい声を出して邪魔をしてしまうところでした」
片手の人差し指の腹と親指の先で口を挟み、顔をこちらから反らしながら笑いを堪えるイエラに魔王はさらにため息をつく。
「ーーたく、居たなら状況は把握出来ただろ?」
少し投げやりに言った事に、コクリと頷き顔を合わせる。
「えぇ、おおよその事は察しが付きましたが・・・・・・本当によろしいので?」
「・・・あぁ。奥の手も秘密も無し、どう考えてもコイツに俺を倒せるとは思えない。にも関わらずこのタイミングで寄越してきたのも気になる。少し奴等に探りを入れるなら頃合い・・・だろうと思ってな。」
戦闘の張り積めた空気からのほどけた緊張を再度締め直すかの様に、魔王は真剣な表情で言葉を選ぶ。
「コイツには囮として餌になって貰う。俺の考えが杞憂に終ればそれに越したことはないんだがな・・・。」
「魔王様・・・・・・。かしこまりました。では、この勇者に尾行兼護衛を付け城の外、裏手へと放置する様に手配致します。無論、その任には適任な者を私が選定しておきましょう。」
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