プロローグ 一月のStreet ~Moon Beams~

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 ある時、あたしは夢を見た。 綺麗な月の夜の夢だ。 今思えば、それは苦悩の始まりだったのだけど、その時は唯、魚眼レンズのような目を通して見えた月を単純に綺麗だと思った。  あたしの目線は普段は見ない高度を彷徨っている。 道端にある自販機の薄汚れた上面が見えるから、たぶん二メートルちょっとくらいの高さだ。 地面に足を着いている感覚がないままに視界は夜の街並みを揺蕩っていく。 まるで魚になって海に沈んだ街の中を泳いでいるような錯覚を覚える。 気持ちが良い。  ここはスクリーン越しに見る自分とは関係ない別の世界みたいだ。 どこにでもある東京の風景なのに、ひどく他人行儀な感じを受ける。 道路の近くにいるのにその騒音が聞こえないから、なおさらそう感じるのかもしれない。 排気ガスの臭いもしない。 一月の寒さもどこかに行ってしまっていた。 大気をかき分ける感触もない。 ただ、現実から遠く切り離された心の静寂があった。
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