プロローグ 一月のStreet ~Moon Beams~

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 魚のような視界は色々な場所を揺蕩っていく。 高速道路の街灯、交番の明かり、地下鉄の電子看板、交差点の信号、赤い自動車のテールランプ。 夜の街は淵が丸く変形していて、ビー玉に閉じ込められた美しい芸術品みたいに見えた。  しかし残念ながら、世界はそんなに綺麗なものばかりじゃなかった。 通り過ぎる道々には卑猥な落書きがあったり、何を主張したいのか分からない政治家のカラフルなポスター、それにカラスの死骸。 自己主張の激しい彼らは静かで華やかな夜景とは調和しない。 あたしは真っ白なシーツに付いたシミを思い浮かべた。 全体の美しさは部分の美しさの積算で表される。 品質管理とはそういうことだと何かの本に書いてあった。 世界には不純物が満ちていて、それを零にすることはどうしてもできない、とも。 魚眼のように丸くゆがんだ視界はそのことを納得させてくれるのに十分な説得力があった。  しばらくそうやって綺麗でもあり、ところどころ汚れている夜景を楽しんでいたが、視界が街角を曲がって路地に入ったとき、ふいにざわり、とした感覚が身体のどこかを駆け巡った。 視界が路地を映す。
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