矜持

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【弥助】 1 「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ…」 月明りの照らす山道を黒い影が、息を切らせて走っている。 身の丈六尺を超える、鎧を着た黒坊主-今で言う黒人の事である。 汗だくで疲労困憊だが、速度は落とさない。もう、どれほど長時間、走り続けただろうか。 乗ってきた馬は、既に使えなくなったため、途中で捨ててきた。 あとは、自分の足で進むより他ない。 「疲れた…もうイヤだ…早く…早く伝えに行かなくては…」 月を見上げ、改めて思った。 2 ボロボロになって走り続ける、彼の名は弥助。東アフリカの出身で、 日本に来る前はヤスフェという名を持っていた。 イエズス会宣教師の所有する奴隷として、一緒の船に乗って日本へやってきた。 奴隷の身分は過酷だ。まともな人間として認められず、人語を解す家畜程度に認識され、商品として売買される。
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