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 今日はやばいんです、本当に。  ついてないレベルが未だかつてないほどにマックス。  5連コンボ余裕なんです。  目覚ましが鳴る前に、両足同時につって身悶えながら起床。  実は目覚ましが鳴る前じゃなく、電池が切れてて鳴らなかったことが発覚。焦りすぎてタンスの角に小指をぶつけて負傷。  折れない心でダッシュするも、散歩中のラブラドールちゃんのウンウンをおろし立てのパンプスで思い切り踏みしめる。  それでも捨てずに駅のホームに滑り込んだ瞬間、始業に間に合う電車のドアが目の前でぷしゅー。  もう遅刻を覚悟して自販機で飲み物を買う。生ぬる~いフルーツオレが出てきたときには、さすがにぐったりしてしまった。 「疲れた…もうイヤだ…」  ホームのベンチに倒れこむように座り、足元を見る。  ベージュのパンプスにべっとりついたラブラドールちゃんのカケラを見ていると、猛烈に家に帰りたくなった。  でも今日は月末の繁忙期で、仮病を発動させるにはリスクが高すぎる。  結局、明日の自分の首をさらにがっちり絞める結果にしかならないから。  重い心と体を引きずるように会社にたどり着くと、種村(たねむら)主任からすぐにお呼びがかかる。 「炭谷(すみたに)さん、8分遅刻だけど連絡なかったよね」 「すみません、とにかく急がないとと思いまして」 「連絡は必ず入れるように何度も言ってると思うんだけど? ルールを守れない人は仕事でもプライベートでも信用されないよ」 「申し訳ありません……」  折れずに何とか行き着いた会社でもらえる言葉がそれかと思うと、つくづく社会は厳しいものだと思う。  遅刻の連絡を入れなかったのは、たしかに自分の落ち度以外の何ものでもない。  今朝の5連コンボなんて仕事には何の関係もないし。  すべて自分の責任。  今日は運もなかったし仕方ないんだけど。  ウンウンはべっとりついてましたけどね。
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