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と、そこに女性が部屋へ入ってきた。
1日に数度ご飯を持ってきて私の様子を見に来るのだ。
と言っても、私はご飯に一口も手を付けていないので、ただ交換しているようなものだが。
しかし、今回はいつもと様子が違った。
女性の忍耐の限界だろうか。
何に使うのか鏡を持って来ていた。
そして、いつもより近くに近づいてきて、ベッドに座っている私の前に鏡を立てかけた。
私は警戒して姿勢を低くしていたが、鏡に写った自分の姿を見て絶句した。
そこには、頬あたりの肉がげっそり削げ、毛は艶がなくボサボサでくすんだ色をした生物がいた。
そして、細い顔に不釣り合いなギロギロとした大きな目。
これは猫ではない、人間の言う妖怪に様になっていた。
変わり果てた自分の姿に驚き、女性の方を見上げた。
いつも目を瞑って音だけで気配を察知するか、一瞥するだけだったので、ちゃんと女性の方を見るのは初めてかもしれない。
女性は、私のその行動だけで何を考えているのかが分かってしまったのだろうか。
背をかがめて、目線を同じ高さにし、真っ直ぐに私の目を見てこう言った。
「あなたは、近所の方々が噂している猫ちゃんよね。特徴がそっくり。近所では、呪いがどーだとか言っているけど、私はそんなの信じてないよ。」
安心させようとしているのか、女性は微笑んで見せようとしたが、うまく笑えていなかった。
「ただ単に、過去の飼い主さんの運が悪かっただけ。だからどうか、自分を痛めつけないで。こんなにやせ細って、あなたは何も悪いことはしていないのに。死にたいなんて考えないで。」
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