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女性は両腕を広げて、私の名前を呼んだ。
「ミルーーー」
私は、女性に抱きすくめられても、その腕を逃れようとは思わなかった。
「私が、おじいちゃんとおばあちゃんの分まで愛してあげるからね。もう淋しくないよ。」
あたたかい・・・。
その瞬間、人生で初めて湯に浸かった時を思い出した。
そして、体の中に蟠(わだかま)っていたものが全て、体外へ溶け出していった。
「猫の呪いとか、近所の人は言っていたけど、そんなものは無いから。私が体を張って証明してあげるから。この先ずーっと一緒だからね。」
私はゆっくりと目を閉じ、女性の鼓動を感じた。
そして再び目を開くと、初めて見るかのように周囲を見渡した。
白い壁に囲まれて、ベッド、テーブル、本棚などの木製家具はやわらかなベージュ、カーテンや絨毯などは若木色で統一されており、新緑の森にでもいるみたいだ。
窓が開けられているのだろうか、気付くとカーテンが揺れ、あたたかな日の光がキラキラと差していた。
悪夢が終わって、夜が明けた。
そんな気がした。
~おわり~
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