5人が本棚に入れています
本棚に追加
疲れた・・・もういやだ・・・・
今にも泣きだしそうな曇天の中、アスファルトの冷たさに私は身を縮めた。
左を向けばコンクリートに囲まれた川が禍々しい色に淀み、異臭を放っていた。
その臭いを少しでも避けようと、アスファルトの右端を歩いていた私のすぐ右脇には、人間の住む住宅の塀が側に迫っていた。
目の前にある全ての世界が灰色だった。
ふと気づくと、目の前の灰色の地面に、濃灰の斑模様が広がっていた。
雨が降ってきたのだ。
生憎、私と雨の間を隔ててくれるものは何もない。頭の天辺に雨粒の冷たさを感じた。
近くに雨宿りできそうなものがないかと、宙を仰ぎ見て後悔した。
目に針が刺さったかと思うほどの衝撃が襲うが、痛みに目をぱちくりしてみると何も刺さっていない。雨粒が目に入っただけのようだ。
雨宿り先を探すのは諦めて、目に雨が入らないよう俯きながら歩くことにした。
もう何日もろくに食べていないせいか、空腹で足がよろめく。
喉も乾いた。
さらに体中びしょ濡れだ。
萎れるように伸びたヒゲが濡れて気持ちが悪いうえに、自慢の肉球が氷の様なアスファルトに熱を奪われてもう感覚は無い。
疲れた、もういやだ。
もう、どうで もよくなってきた。
その思いがじわじわと体中を侵食して行き、錆付いてしまったかのように脚が歩みを止めた。
そして、腹が濡れるのも構わず地面に伏し、交差させた前脚の上に頭を乗せ、目を瞑った。
かつて、この格好をすると優しく頭を撫でてくれる人がいたことを思い出していた。いや、人達がいたと言うべきだろう。
しかし、その人達はもうこの世にはいない。
確かにその時自分は幸せだった。
しかし、思い出す度に、その幸せ以上に胸が締め付けられ、辛く切ない感情が込み上げてくる。
それでも、この心に刺す棘のような辛さももう終わる。
私の人生と共に。
私は、瞼の重さを感じながらゆっくりと目を閉じた。
最初のコメントを投稿しよう!