出会いと別れ

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私は、自分がいつ生まれたのか親が誰なのかを全く知らない。 人間の言うところで天涯孤独というやつだ。 一番古い記憶で思えているのは、凍るような寒い日に雨水の溜まっている溝で泥水をぴちゃぴちゃと舐めている場面だ。 その時はのどがカラカラで、薄く張った氷を割り水の中に脚を浸けて、斬るような冷たさに凍えながら泥水を舐めていた。 寒いのは嫌いだし痛いのも嫌いだ。しかし、喉の渇きの方が勝っていたのだ。 なぜこんな中途半端なところからの記憶なのか。。。 きっと、初めて人間に拾われた日だからだろう。 「あら、こんな寒い日に子猫ちゃんが!寒いでしょう。さあ、こっちへおいでぇ。」 突然後ろから声を掛けられ、びっくりした私は、前足を緊張させ尾の毛を逆立て、渾身の力でシャーーーッと威嚇した。 しかし、人間は私の渾身の一声に全く怯むことなく、 「そんな小っちゃい体でよく頑張ってきたなぁ。あったかい湯に入れてあげるから、うちにおいで。」 と、人間の片手に納まってしまう私の体を、両手で大事に大事に包み込んだ。 私は、どうやったらこの手から逃れられるのかを考えるよりも、湯とは何なのか、あったかいとはどーゆーものなの かが気になってしまった。 そして、人間の手のぬくもりが気持ちよくて、抵抗することなくされるがままになったのだ。
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