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人生初めてのあったかい湯は、今でも忘れられない。
人間が体を洗う時に使っていた桶が、私の浴槽だった。
当時の私は発育も悪く、桶の中でさえ溺れそうな小ささだったため、人間の手で支えてもらって桶の中の湯に浸かった。
その瞬間、体中の悪いものがすべて溶け出した様な気がした。
私を拾った人間は年を取った人間で、トシコと言う名前だった。
なぜ名前がわかったのかと言うと、一緒に住んでいるもう1人の人間がそう呼んでいたからだ。
そのもう一人の人間は、トシコに「カズオサン」と呼ばれていた。
それからの私は、温かい部屋の中で、泥水ではなくキレイな水とやわらかくて美味しいごはんを毎日食べた。
お腹いっぱいになると、必ずと言っていい程、トシコかカズオサンの膝の上で、頭を優しくなでられながら安らかな眠りについていた。
この、トシコとカズオサンは、年を取ってはいるけど、人間が良く言うあつあつカップルだった。
2人は、私を挟んでソファに腰掛け、
「カズオサン、今幸せ?」
「幸せじゃのぉ」
と、照れながら問答していた。
幸せって言葉、最初は意味が分からなかったけど、徐々にわかってきた。この時の私はすごく幸せだった。
幸せな時間は早く過ぎてしまうもの。これは、私が人生で得た教訓だ。
また、後悔先に立たずという言葉を人間は使うが、まさにこの日の事を言うのだろう。
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