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1年が経ち、私は春の暖かさや夏の蒸し暑さ、秋の涼しさを一通り体感した。
トシコの片手に納まる小ささだった私の体も、いつの間にか人間の両手をはみ出して、胸に抱かれていないと安定しないほどに成長していた。
この頃の私の趣味は家の周りの散策だった。近所の人間を観察するのは、思ったより楽しいものだ。
その日は、トシコとカズオサンに初めて会った日と同じくらい寒い日だった。
更には、晴れが何日か続いていて空気がとても乾燥していたようで、私の自慢の毛並みもふんわり逆立っていた。
こんな日は、お気に入りの毛布に包まっていると、トシコとカズオサンに触られてパチッとなってびっくりするので、散歩に出かけることにした。
家を出る際にトシコが、
「午後から雨になるみたいだから、早めに帰ってくるんだよ。」
と言った。
私に言った言葉のはずなのに、
「そうか。トシコ、じゃあ今日は出かけずに家でのんびりするか。」
と、トシオサンが答えていた。
まさか、トシコとカズオサンにこれきり会えなくなるなんて、この幸せな日々がずっと続くと思っていた私は、全く考えもしていなかった。
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