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ーーー鼻に付く焦げた臭い。
ーーー嫌な感じがする。
散策の途中だったが、押し寄せる不安を払いのけるように急いで家に帰ると、門の前にたくさんの人間が集まり、大きな赤い車と白い車が停まっていた。
焦げた臭いは私の家から漂ってくる。心臓がバクバクと震え、全身の毛が静電気を帯びたかのように逆立っている。
頭の中で”火事”と言う文字が赤信号のように点滅した。
とても恐ろしいことだと言う事、そして何もかも、その場に居合わせた生き物の命を奪ってしまうのだと、かつて、トシコが火事のニュースを見ながら説明してくれた。
だから火事の元になるものには気を付けないとね、と自分に言い聞かせるように私に話しかけていたのは、つい数日前の事だった。
強烈な煙の臭いに体が危険信号を出していて、脚が前に出たがらない。
しかし、トシコとカズオサンが無事なのか確かめたい。嫌がる脚を、無理やり1歩、2歩と前に進め始めたとき、玄関から、黒い煙を纏いながら2人の人間が出てきた。
抱えられている小柄な人間と、それを抱えている大きな人間だ。
私は一目散に小柄な人間の方に駆け寄った。
必死に叫び鳴いた。
小柄な人間は家から離れて安全な場所へ横たえられた。
その顔は煤(すす)で真っ黒だったが、私にはわかる。
トシコだった。
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