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トシコ!トシコ!と呼びかけたくても、私の口から出るのは「ニャーー!」という声だけだ。
しかし鳴き叫ばずにはいられなかった。
少しでもいい、目を開いて!生きていることを確認させて!
そんな私の願いは届かず、トシコが動くことは無かった。
担架に移され、白くて大きな車に乗せられていった。
もちろん私も一緒に乗ろうとしたが、トシコを担いでいた大きな人間に追い払われてしまった。
トシコを乗せた車は、けたたましい音を鳴らしながら私を置いて行く。
どうすれば良いのかわからなくなった私は、車を見送る事しかできなかった。
白い車は火事の煙で汚れて灰色となっていた。
車の後ろ姿は、寒々しい曇り空に吸い込まれていった。
何日も何日も空腹を抱えながら、家の前でトシコとカズオサンを待ったが、2人が現れることは無かった。
近所の人間の噂によると、火事の原因は放火。
トシコはあの時病院へ担ぎ込まれたが、煙を吸いすぎていてそのまま意識は戻らず、カズオサンはトシコより先に病院へ運ばれていたが、重度の火傷で助からなかったそうだ。
私に幸せをくれた2人は死んでしまった。
もし、私があの日散歩に行かず、家に投げ込まれたタバコに気付いて、2人に知らせていればこんなことにはならなかった。
そんな考えがあたまから離れない。
それと同時に、あの幸せな日々はもう過ごせないのだという喪失感、孤独感が頭の中で堂々巡りする。
私はまた、ひとりぼっちになってしまった。
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