ルーティーン

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 エス氏は時間に几帳面だった。  それは病的なほどだった。  朝、7時ちょうどに目をさますと、出社までの時間は分刻みで決められていた。腕時計からは1分ごとにアラーム音がなり、時計を見なくても時間を把握できるようになっている。  朝食は調理時間が決められている冷凍食品とインスタント食品しかない。1ヶ月分の献立はあらかじめ決めていて、冷凍ストッカーに収められていた。  出社は自転車だ。  電車は思わぬ事故に巻き込まれる心配があるし、車などもってのほかだった。経験上、自転車が一番時間を正確に刻むことができた。近所に住む人々はエス氏を時計代わりに使っていた。「彼が家の前を通り過ぎたということは今8時35分か」という具合に。  会社での成績は良くも悪くもなく、普通だった。与えられた以上の仕事をする気はない。3日で仕上げるように求められている仕事は、ぴったり3日で提出した。早く終わらせることはいくらでも可能だが、手持ち無沙汰になるのが嫌だった。  同僚が自分のことをロボットと呼んでいることは知っていた。気持ち悪がられていることも。しかしなんら気にならなかった。継続こそが力であることをエス氏は分かっていたし、継続こそが真の友人だった。  毎年大晦日の日に翌年のタイムスケジュールを作っている。その時に腕立て伏せや腹筋を1日のスケジュールの中に組み込むと、翌年はマッチョに変身した。英会話を組み込めばペラペラになった。  1年あれば何にでもなれることに気づいていた。ただ人はそれをやらないだけで。 「エスさんなら生身の女性と付き合うのは難しそうだよね」会社の同僚が遠くの席でそう言ったのをエス氏は聞き逃さなかった。  確かにその通りだと思っていた。反論する気は毛頭ない。
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