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エス氏はコンビニの前を走り抜けるのが楽しみになっていた。毎日1秒だけ目が合う関係なのに、永遠を誓い合った恋人と一緒にいるような感覚に襲われるのだった。
そんな関係が何ヶ月も続いた。雨の日も風の日も。
しかしついにその均衡が崩れる日が来た。
エス氏がいつも通りコンビニの前を通り過ぎようとすると、そこに彼女の姿はなかったのである。
「あれ?」
エス氏は勤続10年目にして初めて自転車に急ブレーキをかけた。
そして信号が点滅した瞬間に渡らなければいけない横断歩道を渡りそびれてしまった。
エス氏は横断歩道の前で自転車を止め、赤信号を見つめた。
何があったのだろう?
もう明日から会うことはないのか? そう思うと胸が締め付けられそうになっていた。
これから先、もうあんな女性と会うことはないだろう。自分と同じ価値観を持つ女性は多くない。エス氏は深く後悔していた。勇気を出して自分から話しかければ良かったのだ。
「この信号で止まるのは初めてですか?」
エス氏に突然話しかける人がいた。
振り向くといつもの女性が笑いながら立っていた。
「はい」エス氏の顔は驚きから笑顔にゆっくりと変化した。
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