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「シャフィークさん!」
「やっと手に入れた、サキ。きみが会社を休む前の夜、ハキムがこの屋敷に入る姿を見ていたんだ。この大使公邸を調べていくうちに、賭博や娼婦、麻薬を売り物にしていることが分かった。知り合いのつてをたどり、金ならいくらでも出すと言ってここまで侵入出来た」
「……あ」
目頭にじわり、と熱いものがこみ上げてくる。喧嘩別れをしていたのに、シャフィークは危険を顧みず沙己を探しに来てくれた。
「……この前、わがまま言ってごめんなさい。俺、同じ国の人じゃないと気持ちが分からないとか言っていたのに。でも俺、シャフィークさんが昔の恋人と一緒にいるって思っただけで、胸が押し潰されそうな気持ちになったんです」
シャフィークが、目を瞬かせる。
「はじめからそう言ってくれれば、私にも分かるのだ」
「えっ」
「国での常識がどうだとか、サキの国ではなにが普通だとかは関係がない。サキ自身が、私の取った行動で傷ついているなら、私が悪かったのだと思う。……あのときは怒鳴って悪かった。怖かっただろう」
「シャフィークさん」
ぽん、と頭に手を置かれ、心があたたかいもので満たされる。まるで幼い子供が親を信じるように、シャフィークの存在に安心してしまう。この人と一緒だと、大丈夫だという気持ちで一杯になる。
「サキが月曜になっても出社せず、連絡もしてこなかったときは私も愛想を尽かされたのだと思って焦ったぞ。だが、こんなところで外国人の夜の相手をされそうになっていたとは。つくづく目を離しておけない子だ」
クシャクシャとおかっぱ頭をかきまぜられて、ますます自分が幼児のような心地になる。
「ご、ごめんなさい。友達だと思っていた人に騙されてしまって」
「ともかく、細かいことはこの屋敷から出てから聞こう。ベッドがあるところでサキをお預けになるのは残念だが、この大使公邸から出ないことには自由になれんからな」
シャフィークはそう言うと、閉められた扉に張り付くように移動し、「シッ」と沙己に向かって人指し指を立てた。扉を開けると、見張りをしていたのだろう、さきほどの大男が不思議そうに首を傾げる。
「旦那、もうよろしいので?」
「ああ。また今度の楽しみに取っておく」
シャフィークはそう言うと、不意にしゃがみ込み拳を大男の腹に叩き込んだ。
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