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慇懃無礼な態度を取るナディムに、シャフィークは怯まなかった。
「お前らのやったことは誘拐に監禁だ。さらにこの国の者だから、ことが明るみになると重い罪に問われるぞ」
「なにを馬鹿なことを。この屋敷の領地にいる限り、アラビアの罪には問われない」
(俺が戻れば、シャフィークさんは傷付けられない。……戻らなきゃ)
沙己が室内に戻ろうとすると、シャフィークが沙己を背中に隠すように庇ってきた。
「なにをしている、サキ。早く逃げろ」
苛立った声で囁いてくる。
「だって、俺が逃げたらシャフィークさんに危険が」
「どのみち、私は邪魔だろうから殺される。それならサキだけでも逃げたほうがいい」
ひそひそと話している声はすべて筒抜けなのだろう、ナディムが薄ら笑いを浮かべた。
「察しがいいな」
ナディムが懐ふところから黒光りする銃を取り出し、銃口をシャフィークに突きつける。目を細めて狙いを定めている合間に、シャフィークが一気に近づいてナディムの手元を蹴り上げた。ガッ、という音がしたかと思うと、銃が宙に舞っている映像がスローモーションのように映った。蹴られた銃が空中に大きく弧を描き、カラカラと転がりながら沙己の足元にやってくる。
「サキ、銃を取れ!」
「はいっ」
銃などさわったこともないので、暴発しないだろうかと思いつつ、おそるおそる銃身に手を伸ばす。沙己が銃を持ったら、ナディムに抵抗できる。そう思ったとき、ナディムの猫なで声が聞こえてきた。
「その銃を返すんだ、サキ。返してくれたら、今度こそお前達をふたりとも逃がしてやる」
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