6人が本棚に入れています
本棚に追加
その日の真夜中。
もよおした大男が目を覚ますと、用を足そうと洞穴の外へと出た。
雲一つない夜空。
日の入りの頃には無かった月はいつの間にか空高くのぼり、その明かりは洞穴の周りを煌々と照らしていた。
「今日は満月か。」
ふと、焚き火の跡を見ると、熾き火はまだ燻っていた。
白く揺らぐ熾き火の煙は、月明かりに照らされ、風のない夜空をどこまでも高く登っていた。
「まるで狼煙だな。」
ふと、大男は自分の言葉に不安がよぎった。
「まさか……な。」
しかし、拭いきれぬ不安に、大男は熾き火に向かって用を足した。
熾き火はしゅうしゅうと音を立て、その命を全うする。
不安の素を取り去ると、大男は再び寝床へと入った。
真夜中の樹海は、しん、と不気味なほど静まり返っていた。
まるで獲物を狙い、息を潜めるかのように。
最初のコメントを投稿しよう!