一章:大海の歓迎っていうのが実に手荒で

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「0805、潜水開始」 朝空を映す透んだ海面がゆっくりと遠ざかっていくのを見届けて、私は正面に眼を移した。 目で見える変化に乏しいせいか、佇んでいるのか沈んでいるのか、感覚だけではよくわからない。 だけど確実に時間は経っていて、窓の外は薄暗くなっている。 ふと、平たい魚が泳いでいるのが見えた。 博士も同時に気づいたみたいで、 「あれはムネエソの仲間だ。腹部にある発光器の光を調節して海面からの光に溶け込み、外敵から身を守る」 「へええ……目が上向きですよ」 「それは上を泳ぐ獲物を」 博士の説明を聞いていたそんな頃、母船から通信が入った。 『水深200メートルだ。初めての深海はどうだい、ミチル』 「素敵よ、ボッシュ」 できるなら住みたいくらい。 ……呼吸と水圧と寒さがどうにかなれば。
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