第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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◆ なぜお姉さまを呪ったのか、その理由を聞く前に、僕らは簡単に自己紹介をし合った。 霊媒師三人の名刺をお渡しし、キーマンさんは相変わらずハリウッド映画の日本語吹き替え版のように、(らん)さんはほぼほぼ聞こえない声で、僕は可もなく不可もない無難な感じに。 そして斎藤様も自己紹介をしてくれた。 「斎藤です。おくりびさんの事はインターネットで知りました。探し物を頼むなら、おくりびさんの所の鍵さんに頼むのが一番だって……口コミの件数がすごかったんです。それで指名させていただきました」 霊媒師の口コミレビュー……そんなのがあるんだ。 そういえば神奈川の黒十字様も似たような事言ってたっけ。 今度見てみよう。 僕はまだ駆け出しだけど、みんなのコトが書いてあるかもしれない。 すごく美人の霊媒師がいるとか(弥生さん)、すごく不愛想な霊媒師もいたとか(水渦(みうず)さん)、てか人じゃなかった、フィギュアが来たとか(ジャッキーさん)、めちゃくちゃ無口で目を合わせない霊媒師が((らん)さん)とか……何て書いてあるか読むのが楽しみだ。 「さっきの……姉を呪ったというのは……本当です。そのせいで……ああ、なんであんな事しちゃったんだろう……」 斎藤様は苦しそうに顔を歪め、ポツリポツリと語ってくれた。 「私も双子だと言いましたが、姉と私、顔は同じでも性格はまるで違います。私はどちらかというと保守的でおとなしいけれど、姉は進歩的といいますか……好奇心旺盛で、物怖じもせず、なんでも挑戦しないと気が済まない人なんです。私達は……昔からずっと比べられてきました、」 僕は一人っ子で兄弟がいない、だからそういう経験はないけれど、姉妹で比べられるなんて嫌だったろうな。 まして同じ顔だから余計に…… 「学校の成績も、運動も習い事も、なにもかも姉にはかないませんでした。それでも、姉は私を馬鹿にしないし、私を馬鹿にする人には相手が大人だろうが子供だろうが文句を言いにいってくれた。仲も良かったんです、」 良いお姉さまじゃない。 なのに……どうして呪ったりしたんだろう。 三人の霊媒師は同じコトを思っているのか、押し黙ったまま斎藤様の話を聞いていた。 「仲は良かったけど……一緒にいればコンプレックスを刺激されます。同じ双子なのに、どうしてこんなに違うんだろうって。それでもね、学校を卒業して、それぞれ社会に出れば、会社も違うし、姉と比べられる事も少なくなって、心穏やかに過ごせていたんです。それからしばらくして……私は24の時に結婚しました。夫は高校の頃の同級生で、姉も同じ学校だったからお互いによく知っています」 そうか……高校も同じだったんだ。 それが良かったのか悪かったのか、いや、一長一短だろうな。 「私ね、姉にかなう所は一つもなかったけど……唯一夫が自慢だったんですよ。優しくて働き者で思いやりがあって、娘達の面倒もよく見てくれて……なんでこんなに素敵な人が、姉じゃなくて私を選んでくれたんだろうって、ありがたくて嬉しくて幸せでねぇ。夫と双子がいれば、あとは何もいらないって、今までずっと姉と比べられてきた事もどうでもよくなりました」 そうか……僕までホッとする。 旦那さんと娘さん達の話になって、こわばっていた顔が柔らかくなった。 斎藤様にとってご家族は宝物なんだろうな……それなら何故、と思った時だった。 「なのに……、」 一言漏らし黙り込んだ斎藤様の顔が、再びこわばったのだ。
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