第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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「10年前……双子が3才になったお正月でした。家族で私の実家に行ったんです。実家暮らしの姉と、家族と親戚と大勢集まって飲んで食べて……夫も久しぶりに酔って楽しそうでした。普段、仕事をして家に帰れば双子のお世話もしてくれるんだもの、たまにはね……そう思っていたんです。その時、姉も私も夫も同じ大広間にいて、酔ってご機嫌な夫が突然……『高校に入ってすぐの頃、俺、るりに告白してフラれたんだよなぁ』って……笑いながら……」 斎藤様は血が出そうなほど唇を噛んでいた。 ”るりさん”というのは……お姉さまの事なのだろうな。 旦那さん、酔ってたとはいえ何故そんな地雷な話をしたんだよ……斎藤様、相当ショックだっただろうに。 「姉は慌てていました。酔っぱらいの言う事なんかあてにならない、告白なんかされてないって誤魔化していたけど、それが嘘だってすぐに分かりました。夫は私と付き合う前に、姉に……るりに告白してたんです。きっとるりにフラれたから、同じ顔の私にしたんですよ。……あの時の悔しさ……鍵さん達に想像がつきますか?」 キツイな……物心ついた頃からお姉さまと比べられ、その辛さがずっと蓄積されていたのに、旦那さんだけはお姉さまと比べたりしない、自分を選んでくれたと思っていたのに。 それが斎藤様を支え、幸せにもしてくれていたのに。 旦那さんの一言で台無しじゃないか。 「ok、話は大体アンダスタンだ。確かにヘビーだな。ミセス斎藤の気持ちは分からなくはない……but……No one is bad(誰も悪くない)、だ。ハズバンド()、シスター、& you。そう、誰もだ。ロングアゴー()ハズ()はシスターに告ったかもしれない、だが終わった話だ。それに……過去は誰にもノットチェンジだからな」 キーマンさんの言う通りだ。 誰も悪くないよ……高校時代の告白は取り消しようがないもの。 ただねぇ……やっぱし旦那さんが悪いわ。 酒は飲んでも飲まれるなっていうでしょ? お正月の宴会でイイ感じに酔っぱらって、昔話がしたくなったんだろうなぁ。 でもね、話題選ぼ? まぁでも、酔いから醒めた旦那さん、きっとハンパなく青ざめただろうけど。 過去は変えられない、正論中の正論に斎藤様はなにも言えずに俯いていた。 そんな様子に、スーパーフェミニストなキーマンさんは大いに慌て、 「アウチ……ソーリー! 違うんだ、みどりにそんな顔をさせたかった訳じゃない。過去はノットチェンジだ。だから誰も悪くない……but、誰も悪くないからこそ辛かったんだよな。みどり……お願いだ、泣かないでくれ」 ソファから降りたキーマンさんは片膝をついて、斎藤様を覗き込む。 …… …………てか呼び方。 ”ミセス斎藤”から”みどり”になっちゃってるんですけど。
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