第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

31/122
前へ
/2550ページ
次へ
歪めた顔は、最初こそ悔しさと悲しみに彩られていた……が、 「鍵さん……”みどり”って……やだ、人に名前で呼ばれるなんて何年振りかしら」 雇った霊媒師から、まさかの名前呼び(しかも呼び捨て)。 意表を突かれ、出かけた涙が引っ込んだのか、斎藤様はポカンとしている。 とりあえず涙を止める事に成功したキーマンさんは、おもむろにゼブラシャツの胸ポケットから小さなナニかを取り出した。 そして膝をついたまま斎藤様に手渡して…… 「これは……?」 「みどりをハッピーにする”プリティなモノ”さ」 斎藤様は自身の手にあるソレ(・・)をまじまじと見ると弾んだ声を上げた。 「すごい! これ、小さいけどハチミツのビンなのね! ミニチュアっていうのかしら、ちゃんとビンが透明で中のハチミツが透けて見える……キレイねぇ、よく出来てるわねぇ。双子が見たらきっと大喜びするわ」 はしゃいで喜ぶ斎藤様だけど、それでも双子ちゃん達の事を忘れない。 本当にご家族が大好きなんだな。 「プレゼントフォーユー、これはみどりのモノだ。俺は必ずフォレスト()のどこかにいるベアーを連れてくる。その時に、このハニーで乾杯すればいい」 バチン! とウィンクを一つ。 これがトドメになったのか、斎藤様は声を出して笑い出した。 「鍵さんって、おもしろい方ですね。10年前にあなたと会っていたら……もしかして、私は姉を呪わなかったかもしれません……あの頃、私の心は醜かった。悔しさと嫉妬と……夫に裏切られたような気がして……その怒りをぜんぶ姉にぶつけたんだわ」 悲しみの念が見て取れた。 きっと今は後悔してるのだろうな。 それにしても……斎藤様はどうやって呪ったんだろう? 一見、普通のお母さんだし、とうぜん霊媒師でも呪術師でもないだろう。 呪いの方法なんて知っているはずがないよ、僕だって知らないし。 あっ! それともアレかな、有名なやつ。 草木も眠る丑三つ時。 頭にろうそくを立てて、五寸釘でカーンカーンって打ちこむ、”呪いの藁人形”ならぬ”呪いのクマちゃん”的な。 「カーズセレモニー(呪いの儀式)、か。で? セレモニーの方法はどこで知った。『失敗しないファーストカーズ(初めての呪い)』なんてマニュアルでも持っていたのか?」 そんなマニュアルある訳ないだろ、と、ココロの中で突っ込んでいると、隣の隣で(らん)さんの「わわ、本当にあるんだ、」という小声が聞こえた、……ん? なんの話? 物騒チックなマニュアルのコト?  聞いてみたいけど、斎藤様とキーマンさんがお話し中だし、席ちょっと離れてるし、とりあえず覚えてたら後で聞いてみよう。 「そ、そんなマニュアルあるんですか? 私は……インターネットで見たんです。とは言ってもちゃんとした呪いの方法として紹介されてたんじゃなく、都市伝説のような感じで……あ、私、そういうの好きなんです。昔から心霊番組とかよく見てましたから」 オカルト好きなのね。 てことはネットのオカルト板かなんかで見たのかな。 肝試しの実況とか、僕もたまに読むけどアレめちゃくちゃ怖い! そんな所、給料も出ないのによく行くよなぁなんて思っちゃう。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2367人が本棚に入れています
本棚に追加