第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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「姉の髪と爪が手に入ったのは偶然。慌てて実家から逃げ帰って、結婚輪指に姉の髪が絡みついていたの。それと爪は、化粧ポーチに入っていた小さな爪切りに残っていて……本当です、最初から姉を呪おうなんて思ってなかった、」 尻すぼみな声。 偶然呪いに必要なアイテムが揃ってしまったんだ。 髪と、爪と、それからクマの縫いぐるみという依代が。 そして手のかかる3才の双子もいない、旦那さんも外出中。 心は乱れグチャグチャで、つい……魔が差した。 呪いの方法はこうだと話してくれた。 呪いたい相手の髪や爪、血液などを手足のある人形に埋め込み、 ____今からあなたは✕✕✕✕(呪いたい相手の名前)です、 ____体の中の髪と爪がそれを証明する、 これを三回唱えて、目を閉じて、心の中で百を数える。 この時、数え終わるまで決して目を開けてはいけない。 たとえどんな声が聞こえようとも、たとえどんな音が聞こえようとも、 たとえ得体の知れないナニカ(・・・)が術者の身体に触れようとも。 数え終え、再び目を開けたら、両手でしっかり人形を抱きしめる、 腕の中で頭を撫で、背中をさすり、頬をつまみ、できうる限り優しくする、 同時、口からは絶えず呪いの言葉を吐き続ける、 恨み辛みを、優しく抱きしめ浴びせ続ける、 これを最低でも一時間。 たったそれだけの単純な作業。 だからこそ斎藤様は手順を覚えていた。 複雑なものならきっと、調べ直してまで呪おうとは思わなかったかもしれない。 「やる事は簡単です。あとは気持ちが持つかどうかだけ」 当時を思い出してるのだろうか、心なしか顔色が悪い。 「メンタルキープがディフィカルト (むずかしい)? why? シンプルタスク(単純作業)じゃないか」 「why?」のトコロで、両肩を大袈裟に上げたキーマンさんが斎藤様に問うと、 「……確かに、やる事は単純作業だわ。でもね……」 絞り出すように教えてくれた、不可解で不気味な現象。 それは。 「クマの顔は……目も鼻もボタンが縫い付けてあるだけ。なのに……表情なんてないはずなのに、呪いの言葉を吐けば吐く程、目が血走って……真っ赤になって……見開いて……私を睨みつけるんです……恨めしそうに、哀しそうに……それがすごく怖くて……気持ち悪くて……手から落としそうになりました、でも」 ただの縫いぐるみが睨みつけたって? ボタンの目で? 斎藤様を疑っているわけじゃない。 けどさ、おくりびきっての”憑依の達人”、ジャッキーさんが操るフィギュアだって、霊力(ちから)でもって表情を変えるのは不可能。 人の手で作られた物は、霊力(ちから)で一から構築した物とは違うからだ。 だからどうしても変えたい時ジャッキーさんは、フィギュアの頭部を引っこ抜き、表情違いのスペア頭部と入れ替える……そう、物理的な方法しかない。
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