2367人が本棚に入れています
本棚に追加
「姉の髪と爪が手に入ったのは偶然。慌てて実家から逃げ帰って、結婚輪指に姉の髪が絡みついていたの。それと爪は、化粧ポーチに入っていた小さな爪切りに残っていて……本当です、最初から姉を呪おうなんて思ってなかった、」
尻すぼみな声。
偶然呪いに必要なアイテムが揃ってしまったんだ。
髪と、爪と、それからクマの縫いぐるみという依代が。
そして手のかかる3才の双子もいない、旦那さんも外出中。
心は乱れグチャグチャで、つい……魔が差した。
呪いの方法はこうだと話してくれた。
呪いたい相手の髪や爪、血液などを手足のある人形に埋め込み、
____今からあなたは✕✕✕✕(呪いたい相手の名前)です、
____体の中の髪と爪がそれを証明する、
これを三回唱えて、目を閉じて、心の中で百を数える。
この時、数え終わるまで決して目を開けてはいけない。
たとえどんな声が聞こえようとも、たとえどんな音が聞こえようとも、
たとえ得体の知れないナニカが術者の身体に触れようとも。
数え終え、再び目を開けたら、両手でしっかり人形を抱きしめる、
腕の中で頭を撫で、背中をさすり、頬をつまみ、できうる限り優しくする、
同時、口からは絶えず呪いの言葉を吐き続ける、
恨み辛みを、優しく抱きしめ浴びせ続ける、
これを最低でも一時間。
たったそれだけの単純な作業。
だからこそ斎藤様は手順を覚えていた。
複雑なものならきっと、調べ直してまで呪おうとは思わなかったかもしれない。
「やる事は簡単です。あとは気持ちが持つかどうかだけ」
当時を思い出してるのだろうか、心なしか顔色が悪い。
「メンタルキープがディフィカルト ? why? シンプルタスクじゃないか」
「why?」のトコロで、両肩を大袈裟に上げたキーマンさんが斎藤様に問うと、
「……確かに、やる事は単純作業だわ。でもね……」
絞り出すように教えてくれた、不可解で不気味な現象。
それは。
「クマの顔は……目も鼻もボタンが縫い付けてあるだけ。なのに……表情なんてないはずなのに、呪いの言葉を吐けば吐く程、目が血走って……真っ赤になって……見開いて……私を睨みつけるんです……恨めしそうに、哀しそうに……それがすごく怖くて……気持ち悪くて……手から落としそうになりました、でも」
ただの縫いぐるみが睨みつけたって?
ボタンの目で?
斎藤様を疑っているわけじゃない。
けどさ、おくりびきっての”憑依の達人”、ジャッキーさんが操るフィギュアだって、霊力でもって表情を変えるのは不可能。
人の手で作られた物は、霊力で一から構築した物とは違うからだ。
だからどうしても変えたい時ジャッキーさんは、フィギュアの頭部を引っこ抜き、表情違いのスペア頭部と入れ替える……そう、物理的な方法しかない。
最初のコメントを投稿しよう!