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「どんなに恐くても、落とす訳にはいかなかった。だって書いてあったんです。儀式をちゃんと終わらせるまで、絶対に手から離しちゃいけないって……離したら、呪いは私に降りかかるって……」
斎藤様は力なく俯いて途中目を瞑り、長い溜息をついた。
そしてこう続ける。
「怖くてたまらなかった、クマを捨てて逃げたかった、でもそれも怖くて出来なかった。簡単にるりを呪ったくせに、自分が呪われるのは嫌だったの……酷い妹ですよね……でも信じて、軽い気持ちだった……確かに腹は立ったけど、それでもるりが死んだらいいなんて絶対に思ってない。ただ……呪いの真似事をして、鬱憤を晴らすくらいの気持ちだった。だって、ちゃんとした本に書いてあったんじゃないもの、インターネットの掲示板に載っていた、ただの走り書きだもの……! 何も起こらないって思ってたのよ、」
革張りのソファの上、斎藤様は顔を伏せて声を殺して泣き出してしまった。
キーマンさんは震える肩をさすりながら、
「oh……みどり、ノットクライ……聞いてくれ、もう一度言う。過去はノットチェンジだ。悔いているんだろう? 今はそれで充分だ。懴悔はあとでたっぷり聞いてやる、ちゃんと神父の恰好でな。それで? 当時カーズセレモニーはフィニッシュさせたのか?」
話の続きを促した。
「……一時間は林にいました。だけど……儀式をちゃんとしたかと聞かれれば、そうとは言えません」
「why?」
「儀式は呪いの言葉を言い続けなくちゃいけない……だけど私……怖くて……取り消したくて……それで一時間、ずっと謝り続けました。『ごめんなさい、許してください、るりにも私にも酷い事しないでください』って」
斎藤様……結局は呪えなかったんだな。
どんなに悔しいと思っても、憎たらしいと思っても、それでもお姉さんを嫌いにはなれなかったんだ。
そうだよね、だって姉妹なんだもの。
しかも自分と同じ顔をした双子のさ。
「そうか……それで良かったんだ。人を呪わばツーホールと言うからな。で? カーズベアーはなんと? 『気にするな、シスター! そう言い出すのを待ってた!』、か?」
そう言ってくれたらいいけど……簡単に許してもらえるとは思えない。
斎藤様はキーマンさんの言い回しに小さく笑うも、すぐに沈んだ顔になる。
「いいえ、そんな事言ってもらえなかった。クマは私が謝るたびに皮肉たっぷりに笑ったの。それだけじゃない『モウオソイ、テオクレダ』って……声が……頭の中にずっと響いて……すごく怖かった……それでもう限界で……儀式をちゃんと終わらせないままクマを林に置いて逃げ帰ったんです」
怖っ……!
僕は内心ガクブルだった。
薄暗い林の中で不気味なクマちゃん(お腹の中には髪と爪)と二人きり。
動くはずのない縫いぐるみは、目をギラつかせて脳内に話しかけてくる……とか、もう勘弁してほしい。
きっと僕なら、鼻水垂らして泣きながら、塵になるまで無限霊矢を撃ち込んじゃうよ。
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