第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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「どんなに恐くても、落とす訳にはいかなかった。だって書いてあったんです。儀式をちゃんと終わらせる(・・・・・・・・・)まで、絶対に手から離しちゃいけないって……離したら、呪いは私に降りかかるって……」 斎藤様は力なく俯いて途中目を瞑り、長い溜息をついた。 そしてこう続ける。 「怖くてたまらなかった、クマを捨てて逃げたかった、でもそれも怖くて出来なかった。簡単にるりを呪ったくせに、自分が呪われるのは嫌だったの……酷い妹ですよね……でも信じて、軽い気持ちだった……確かに腹は立ったけど、それでもるりが死んだらいいなんて絶対に思ってない。ただ……呪いの真似事をして、鬱憤を晴らすくらいの気持ちだった。だって、ちゃんとした本に書いてあったんじゃないもの、インターネットの掲示板に載っていた、ただの走り書きだもの……! 何も起こらないって思ってたのよ、」 革張りのソファの上、斎藤様は顔を伏せて声を殺して泣き出してしまった。 キーマンさんは震える肩をさすりながら、 「oh……みどり、ノットクライ……聞いてくれ、もう一度言う。過去はノットチェンジだ。悔いているんだろう? 今はそれで充分だ。懴悔はあとでたっぷり聞いてやる、ちゃんと神父の恰好でな。それで? 当時カーズセレモニー(呪いの儀式)はフィニッシュさせたのか?」 話の続きを促した。 「……一時間は(そこ)にいました。だけど……儀式をちゃんとしたかと聞かれれば、そうとは言えません」 「why?」 「儀式は呪いの言葉を言い続けなくちゃいけない……だけど私……怖くて……取り消したくて……それで一時間、ずっと謝り続けました。『ごめんなさい、許してください、るりにも私にも酷い事しないでください』って」 斎藤様……結局は呪えなかったんだな。 どんなに悔しいと思っても、憎たらしいと思っても、それでもお姉さんを嫌いにはなれなかったんだ。 そうだよね、だって姉妹なんだもの。 しかも自分と同じ顔をした双子のさ。 「そうか……それで良かったんだ。人を呪わばツーホールと言うからな。で? カーズベアー(呪いのクマ)はなんと? 『気にするな、シスター! そう言い出すのを待ってた!』、か?」 そう言ってくれたらいいけど……簡単に許してもらえるとは思えない。 斎藤様はキーマンさんの言い回しに小さく笑うも、すぐに沈んだ顔になる。 「いいえ、そんな事言ってもらえなかった。クマは私が謝るたびに皮肉たっぷりに笑ったの。それだけじゃない『モウオソイ、テオクレダ』って……声が……頭の中にずっと響いて……すごく怖かった……それでもう限界で……儀式をちゃんと終わらせないまま(・・・・・・・・・・・・)クマを林に置いて逃げ帰ったんです」 怖っ……! 僕は内心ガクブルだった。 薄暗い林の中で不気味なクマちゃん(お腹の中には髪と爪)と二人きり。 動くはずのない縫いぐるみは、目をギラつかせて脳内に話しかけてくる……とか、もう勘弁してほしい。 きっと僕なら、鼻水垂らして泣きながら、塵になるまで無限霊矢を撃ち込んじゃうよ。
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