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「ウェイトだ、みどり。カーズセレモニーをちゃんと終わらせなかったって? それじゃあカーズはナウどうなっているんだ……タイムアップで無効になっていればいいんだがな、」
呪いの儀式にそんな安全装置がついているとは考えにくい。
下手すりゃ呪いは継続中、もしくは作業の途中で止まっているんじゃないだろうか?
……止まっているとどうなる?
斎藤様やお姉さまに悪影響が出てなければいいんだけど。
「私……家に帰って……大変な事をしてしまったと後悔しました。どこにいても『モウオソイ、テオクレダ』ってクマがやって来るような気がして怖かった……でもね、しばらくは特に何も起こらなかったんです。クマは一向に姿を現さないし、るりに電話をして、最近変わった事はないかと聞いたけど、いつもと変わらないと答えるだけ、」
そうなの……?
本当に呪いはタイムアップしてしまったんだろうか……?
それに越したことはないけど……って希望的観測だな。
だってそれなら僕達が呼ばれる事はなかったはずだ。
「最初の一週間は怯えていました。でもそのうち双子が帰ってきて、毎日が目が回る程忙しくて、それどころではなくなったわ。だから……日が経つにつれ、あれは現実だったのかしらって思い始めたんです。双子も家事も大変でいつも寝不足。だから……るりを呪った後ろめたさが見せた夢だったんじゃないかって……忘れてしまいたかった」
夢だったんじゃないか____そう思うのならなぜそんなに辛い顔をしてるんですか。
斎藤様はキーマンさんからもらった”みどりをハッピーにするカワイイモノ”、ミニチュアのハチミツを握りしめて俯いている。
「るりは……それまで実家暮らしで、ウチと実家も近いから、特別に会おうと思わなくてもしょっちゅう顔を合わせてました。ここは田舎だもの、スーパーだって近所に一つしかない。コンビニもファミレスだって一軒ずつしかないわ。私は……夫がるりに想いを寄せていたと知ってから、るりを避けるようになりました。どこかで会えば逃げるように立ち去って……るりが悪いんじゃないのに、でも、顔を見たくなかった。るりはそのたび悲しそうな顔をして、後ろから何度も何度も『ごめんね』って言ってました」
斎藤様も辛かっただろうけど、お姉さまもかわいそうだ。
旦那さんは何してるんだよ。
双子の姉妹が、旦那さんの余計な昔話で拗れてしまったというのに。
会った事もないけど、なんだか腹立たしく思ってしまう。
「それから数カ月して……近所のどこを歩いてもるりと会わなくなりました。こんな田舎で家族や知り合いに会わないなんてあり得ない。それとなく母に『るりは元気でやってるの?』って聞いてみたら、『るりなら実家を出ていったわよ』って……看護師の学校に行く為に、仕事を辞めて東京に引っ越したと言うんです。確かに、”今からでも看護師になりたい”ってよく言ってました。当時28才でしたが看護師になるのに年齢制限はないと聞きます。それでも……あまりに急でした。母は『お姉ちゃんは思い立ったら早いから』と笑ってたけど……きっと私のせいだって思いました。昔の話に嫉妬して、るりに当たって、呪いまでかけて、挙句無視をしたんですから、」
何度目の溜息だろう?
話をすればする程、斎藤様の顔は青ざめていく。
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