第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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「母は明るく『あの子らしいわ』って言ってたけど、本当は姉妹に何かあったと知っていたんだと思います。もしかしたら、るりから全部聞いていたのに知らない振りをしてるだけかもしれない、そう思ったら、恥ずかしくていたたまれなくて……勝手な私は、また……るりに腹を立てました。文句のひとつでも言ってやりたいと思ったけど、何の相談もなく東京に行ってしまったるりに、こちらから連絡を取るのも癪で、モヤモヤして、心の中で文句ばかり言って……その夜でした。私の元に……あのクマが……現れたんです、」 ク、クマ、来ちゃったの……!? 数か月も音沙汰なしだったんだから、もうそのまま来なくて良いのに……! 僕は腕に鳥肌を立てながら、怖がってるのは僕だけか? と、横を見る。 ……と、「アウチィ!」とアメリカナイズに首を振るキーマンさんは、通常運転すぎちゃって、怖がってるのか面白がってるのか判断が難しい。 じゃあ(らん)さんは? というと少し様子がおかしかった。 感情の読めない顔で一点だけを見つめるも、その目に一切の光がなく、黒目ばかりが目立った状態。 どうしたんだろう……?  「双子を寝かしつけ、私はリビングで夫の帰りを待っていました。でも中々帰って来なくて、夜も遅くになってやっと夫から電話が来たんです。帰り道で車が故障した、修理の人を呼んでるから遅くなる、先に寝てていいと……電話を切ったあと、なんとなく妙な胸騒ぎがして……どうしても気になってかけ直したんです。着信からリダイヤルして、呼び出し音がして……それで……それで……出たと思ったら『……ミドリィィ……ヒサシブリダナァ……』って……地響きみたいな声が……明らかに夫じゃない、クマの声が聞こえて……」 イヤァァァァ! 旦那さんに電話したはずなのに(リダイヤルだもん、間違えようがないよ)、呪いのクマが着信応答ってイヤすぎないか? 元々僕は怖がりなのだ、話を聞いてて鳥肌が立ちまくる。 油断すれば乙女のような悲鳴を上げそうになるというのに、なんとか耐えた、なんとか無表情を作ってる。 神奈川の現場で、依頼者である黒十字様の目の前で悲鳴を上げてしまった僕は学習したのだ。 依頼者の前で霊媒師が悲鳴を上げるって絶対にダメ。 だって斎藤様引くじゃん、この霊媒師ダイジョブかって不信感持っちゃうじゃん、それって信用問題じゃん。 「クマの声だってすぐにわかって……怖くて……突然だったし、びっくりして、持っていた携帯を投げ捨てました。けど、クマは逃がしてくれなかった。今度は部屋の中から、背後から、同じ声がしたの。『ルリガイナクナッテヨロコンデイルンダロウ?』、……私は、怖くて振り向く事が出来ませんでした」
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