第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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____ルリガイナクナッテヨロコンデイルンダロウ? 「地響きを思わせる低い声。それが背後から聞こえて、あのクマだ……るりが大事にしていたテディベアだって思ったら、身体が震えて振り向く事も、その場から動く事もできませんでした。るり……あのクマを本当に大事にしていたのに……私はそれを知っていたのに、勝手に奪ってハサミで腹を裂いてしまった……私は……心の醜い人間だわ……」 その日の夜は、結局最後まで振り向く事は出来なかったそうだ。 クマは背後から、一言発するたびに距離を詰めてきた。 振り向かなくても、目で見なくても、斎藤様にはそれがわかった。 曰く、空気が動くからだそうで、クマが歩くたびに空気が流れ、土の匂いが強くなるのだと言っていた。 ____ミドリガ呼ンダンジャナイカ、 ____ナノニ、ドウシテ置イテカエッタ、 ____続キヲシヨウ、 ____ルリヲ呪ウノダロウ? ____チカラヲ貸シテヤル、 ____アソボウ、アソボウ、イッショニ遊ボウ、 ____ルリデアソボウ、 ____怖イノカ? ____ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラッ! ____アソボウ、アソボウ、イッショニ遊ボウ、 ____フタゴデ遊ボウ、 ____モウオソイ、テオクレダ、 やめて、ごめんなさい、私が悪かったから、許してください、 斎藤様は震えながら何度も謝った。 だが、聞き入れてはくれなくて、謝る言葉に被せるように『アソボウアソボウ』と繰り返すばかり。 斎藤様は途方に暮れた。 どうしていいか分からない。 だから聞いたそうだ、どう謝れば許してくれるのかと。 ____ユルス?  ____呼ンダノハミドリ、 ____オレハ呼バレタ、ダカラ来タ、 ____ミドリガ望ンダ、ルリノ不幸ヲ、 違う……! 本気で望んでなんかいない! るりが不幸になればいいなんて思ってないわ! 私はただ、 ____タダ? ____タダナンダ? ____呪ッタクセニ、オレノハラヲ裂イタクセニ、 ____スゴクイタカッタ、 ____イマダッテイタイ、 ____裂イタ……傷ニ……ルリノ……髪ト爪……イレラレタ、 ____イタイ……イタイ痛イ痛イイタインダヨォォォォッ!! ____モウオソイ、テオクレダ、 ____呪イハハシリダシタ、 ああ、ごめんなさい、私がみんな悪いの、 お願いです、私とるりに酷い事をしないでください、 本気じゃなかった、興味本位だった、鬱憤晴らしのつもりだった、 二度としません、だから、許してくだ、 ____ユルス、許ス、ユルス? ____ダレガ? ダレヲ?  ____許スノハダレ? ____許サレルノハ誰? 許すのは誰なのか、許されるのは誰なのか。 そう問われた次の瞬間、斎藤様は悲鳴を上げた。 背後から、重たいナニカ(・・・)が首の後ろに飛びついて、強い力でしがみつかれ、そして、 ____ゼッタイニニガサナイ、 呪いの囁きを聞いたのを最後に気を失った。
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