第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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「”絶対に許さない”、か。ずいぶんと気に入られてしまったな、みどり。まったく……本来テディベアーはプリティなモンさ。ベアーのラブリー&キュートは人をハッピーにさせる。それがどうした、みどりをこんなに怖がらせて。ベアー(ヤツ)はブギーマンを気取ってるのか? だとしたらお仕置きが必要だな」 珍しい、キーマンさんが語気強めに話すなんて。 いつもはもっと余裕めいた、洋画専門声優さんのようなのに。 きっと気に入らないんだ。 本来人をハッピーにさせる可愛いはずのクマちゃんが、斎藤様をアンハッピーにさせているのが。 「ヘイ、みどり。辛いだろうが教えてくれ。それがten years ago(十年前)と言うのなら、その後はどうなった? ベアーに何をされた? るりは無事なのか?」 キーマンさんが、この十年間の事を聞く。 「るりは……無事です。あの夜、気を失ってしまったけど、次の日の朝一番でるりに電話をしたの。全部正直に話したわ。夫の事だけが原因じゃない、小さな頃からずっとるりに嫉妬していた事、告白の話を聞いて今までの不満ごと爆発してしまった事、るりの大事なクマの縫いぐるみを裂いてしまった事……それからるりを呪った事。私のせいでるりに何かあったら申し訳なくて、今無事でいるのかと、これからしばらく気を付けてほしいと話しました」 そこまで全部話したんだ……勇気がいただろうな。 斎藤様の醜い部分だもの、本当なら内緒にして墓場まで持っていきたい内容だ。 それでもお姉さまに話したのは愛情があるからなのだろう。 「るりは……クマを裂いた事に対してすごく怒りました。”大事にしてたのに”、”お腹を裂くなんてかわいそうじゃない”って。だけどね、私がるりを呪った事や、るりに嫉妬していた事に対しては怒らなかったんですよ。”自分の旦那が、自分の姉に告白した過去があるなんて誰が聞いても怒る。だからみどりは悪くないよ”って。呪いに対しても、”元々私のクマだもの。来てもし襲ってきたらギュウって抱っこで応戦するわ。それよりお腹の手当てをしてあげなくちゃ”って。……るりは昔からポジティブなんです。悩んで俯くよりも、笑い飛ばして前を向くタイプなの……私とは正反対、」 や、呪いのクマちゃん抱っこで応戦する気なの? ちょ、本当にポジティブだよ。 だけどきっと、元々の性格に加え、やらかしてしまった妹への気遣いもあったんだろうな……良いお姉さまだ。 「クマは……たびたび私の所に現れました。最初は数か月に一度、前触れもなく突然やってきて、嫌な事をたくさん言うの。来るたび怖くて、責められるのが辛くて……ただ、るりの所には行ってないみたいで……それが唯一の救いでした」 「ホワッツ? ザッツオール(それだけ)? 忘れた頃にみどりオンリーにカムアップ(やってきて)? で? スパイシートークをして帰るのか?」 上げた両手、そして両手首を勢いよく前に倒し、ホワッツ? ホワッツ? と繰り返すキーマンさん。 斎藤様は少し考え、そしてこう続けた。
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