第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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「……結果的にはそうです。でも……本当に何もしてこないかと言えば違います。クマは、何度も私を襲おうとしました。だけど……そのたびナニカ(・・・)がクマのジャマをするんです。クマが何かを仕掛けてくると……小さな光が現れて追い返してくれるの。正体は分かりません。もしかしたらご先祖様かしら……と思って、お墓に手を合わせるくらいしか出来ないけど、そのおかげで今までは(・・・・)責められるだけですんでいました」 守ってくれるナニカ(・・・)? 斎藤様はご先祖様かもと言うけど、ここにそれっぽい(かた)はいない。 クマが来た時だけ現れるのだろうか……? 「だけど最近……ここ数カ月で状況が変わったの。クマが現れる頻度が急に上がった、数か月に一度だったのが数日に一度になって『モウスコシダ、アト少シデ邪魔モノガイナクナル、タノシミニシテロ』って……私、怖くて……この十年も怖かったけど、クマの言う”邪魔者”とは、きっと今まで私を守ってくれたご先祖様なのよ。理由はわからないけど守る力が弱くなって……ご先祖様がいなくなったら今度こそクマは襲ってくる。私が襲われるのは……怖いけど覚悟は出来てる、自業自得だもの。でもね、もしもこの先、罪の無い娘達や夫、るりまで襲われたら……そんなの絶対に嫌……!」 我慢も限界なのだろう。 斎藤様は顔を伏せ、わんわんと泣きだした。 キーマンさんは、丸める背中をさすり続けている。 しばらく泣いて、泣き止まないまま顔を上げた斎藤様は僕達に懇願した。 「お願いです、林のどこかにいるクマを探してください……! それで……それで……クマの怒りを鎮めて呪いを解いてほしいの……! 私……怖くて行けなくて……自分で行かなくちゃって思うけど、この十年ずっとそう思ってきたけど、どうしても怖いの……! なんであんな事してしまったんだろう、るりは悪くないのに、夫だって悪くない、悪いのは全部私なの、私に何かあっても構わない、でも家族は無関係だわ……! お願い……お願いします……! 助けて……助けてください!」 かわいそうに……この十年、ずっと不安だったんだろうな。 安心して眠れた日なんてなかったかもしれない。 ましてや、斎藤様を守ってくれる存在……おそらくご先祖様の霊力(ちから)が弱まって、いつ襲われるかわからない状態じゃあ、生きた心地がしないだろう。 それで僕達を呼んだのか……クマを見つけだし、呪いを解いてもらう為に。 斎藤様は”私に何かあっても構わない、自業自得だから”と言うけれど、そんな事ないですよ。 確かに、お姉さまを呪うなんて褒められた事じゃない。 でも斎藤様は本気じゃなかった、鬱憤晴らしの延長だったんだ。 その証拠に、様子がおかしくなってすぐ、呪いの言葉のかわりに謝り続けた。 反省して後悔して、だけどなす術がなくてずっと苦しんできた。 人ってさ、言うより思うより弱い生き物だよ。 強くありたい、優しくありたい、そう強く願っても、うまくいかない時もあるんだ。 それなのに執拗に追い詰める必要がどこにある。
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