第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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◆ 泣きじゃくる斎藤様に、必ずクマを見つけ出し、怒りを鎮めると約束した僕達は、さっそく呪いの林へと向かった。 移動手段は車。 斎藤様のご自宅から徒歩で行くには少々遠く、車なら五分程度の場所にあるからだ。 キーマンさんのセーフティドライブで無事到着すると、斎藤様に言われた通り、林の入口にある駐車スペースに車を止めた。 相変わらずカーナビは、 【べ、別にあんたのコトなんか好きじゃないんだからねっ!】 と、萌え萌えなセリフで目的地の到着を教えてくれたのだが……これ、改めて聞くと悪くないかも。 てかさ、僕のスマホのアラームも弥生さんの声に改造できないだろうか?  冗談装い、さり気なく(らん)さんに聞いてみると「一日預からせてもらえれば出来ますよ」って、マジで?  やだどうしよう、頼みたいけど、頼んだら好きなのバレちゃう。 それにしても(らん)さん、よくこんなの作れるよなぁ。 キーマンさんの器用さとはベクトルが違うけど、尊敬に値する器用さだ。 エンジンを止め、僕達と猫又は車から降り立った。 どのくらいの広さがあるんだろう? 見渡す限り広がるは、うっそうと茂る木々。 辺りに民家はなく、人の気配は皆無。 代わりにカラスの群れが頭上をゆっくりと旋回していた。 「念の為に用意してあるんだけど、結界、張った方がいいですかねぇ?」 事務所を出る時に持ってきたんだ。 生者避けの結界用人形(ヒトガタ)を数十枚。 一度、マジョリカさんの口寄せの時に使った事がある。 禍々しい程に真っ黒で、手に持つと動悸、息切れ、嫌悪感でいっぱいになる代物だ。 この人形(ヒトガタ)を現場周辺、囲むように地面に刺して結界線で結んでやれば、生者は『なんだろ……よく分からないけど、あそこには近付きたくない……!」と、強烈に感じてくれるのだ。 結果、僕ら霊媒師が仕事中、たとえ悪霊と戦っていても、降霊術を使っていても、なにしてても、一般生者に目撃される事なく作業が進められるのよ。 生者避けとして優秀な人形(ヒトガタ)は、白い半紙を小さな人の形に切り抜いた物で、そこに水渦(みうず)さんの”負の感情、妬み、嫉み、憎しみ、怒り” を滴る程に沁み込ませたら完成する(この負の感情が白い半紙を黒くさせるんだって)。 事務所から持ち出す時は、小箱に入れて必ず封印シールを貼らなくてはいけない。 移動の途中で箱が開けば、分散前のまとまった”負の感情”にあてられてしまうからね。 取り扱い注意アイテムですよ。 「アーウイェ……そうだな、チェリーボーイがせっかく持ってきてくれたんだ。バリアーを張っておいてもいいだろう。いくら人気(ひとけ)がナッシングとはいえ、一般生者が迷い込んだら説明が大変だ。ま、その時はスリーメンズでハイなチアダンスでも踊って見せれば誤魔化せるだろうがな」 チ、チアダン……? モノのたとえで冗談を言っているのか、それとも本気なのか、ちょっとわからない。 だってさ、先入観かもしれないけどキーマンさん、チアダンくらい踊れそうな雰囲気なんだもん。 なんて思ってたら、 「そか……良かった。ボク、チアダンスならなんとかなるかも、」 (らん)さんが小声で独り言ちている。 え? ウソでしょ? なんとかなるの? 
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