2367人が本棚に入れています
本棚に追加
検索ダイスキ30才独身、猫の下僕。
まさかの圏外表示にガックリしながらスマホをポッケに戻す。
そんな僕の姿があまりに哀愁漂っていたのか、嵐さんが声を掛けてくれた。
「……お、お、岡村さん……ど、どうしたんですか?」
目線は明後日どころか来月あたりを向いてるけれど(完全に横を向いて目は合わせない)、それでも僕を気にかけてくれたのだ。
なんだろ……嬉しい。
たとえるなら、気が弱くて懐いてくれない近所の猫が、少しずつ、本当に少しずつのミリ単位で近づいてきてくれるのに似てる。
「あのね、さっきからキーマンさん、『マルコー』とか『ポーロー』とか言ってるでしょう? クマの名前? とか、冒険家? とか思ったけど、なんか違うような気がして、スマホで検索しようとしたら……圏外なの。僕、ネットがないと不安になるタイプなのに。……嵐さんはキーマンさんの言ってる意味わかる?」
「……ん、な、なんだろね。わかんないや。キーちゃんって普段からヘンなコトよく言うからねぇ。……じゃあ、ボクが調べてみよっか?」
おっ、嵐さん気付いてるのかな?
今、僕に対して敬語を使ってないってコトに。
行きの高速、車の中でいっぱいおしゃべりしたから、少しは慣れてくれたのかもしれない(姐御とミスターの結婚話で盛り上がったからねぇ)。
いいぞ! この調子!
「アリガトね……でも嵐さんのスマホも圏外なんじゃない? だって同じ場所にいるんだも、……あ、」
言いながら思い出した。
嵐さんが車の中でスヤスヤしてた時、キーマンさんはこう言ったんだ。
____ジェーンはネットの世界にダイブする、
と。
あれ? もしかしてさ、スマホが圏外だろうが嵐さんには関係ないって話?
ちょ、それすごい便利じゃない?
「さっき……キーマンさんからスキルを聞いたんだ。嵐さん、ネットの世界にダイブするんでしょう? ねぇねぇ、林、圏外だけどそれでも出来ちゃうの?」
ワクワクしながら聞いてみる。
すると恥ずかしそうに慌てながら、
「ス、スキルって、そ、そんなに大したモノじゃないよ……で、でも、検索……出来るよ……」
「ワーオ! リアリィ? ってイカン、キーマンさんが移っちゃった。気を付けなくちゃ……って、そんなコトより嵐さん! やって! 僕見たい! あ、てか、見ててダイジョウブ? 僕が見てたら緊張しちゃう? アクセス失敗しちゃう? 離れてよっか?」
なんちゃって、親切を装ってるけど離れたって大丈夫。
嵐さんには言ってないけど、僕の視力は両眼2.0。
見てない振りして見る気満々……とたくらんでいたのに。
最初のコメントを投稿しよう!