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「ダ、ダイジョブだよ。でもダイブ前にジーッと見たりしないでね。そ、それされたら緊張して、うまくネットの世界に行けなくなっちゃうかも。で、でも安心して。行っちゃえば単純な単語の検索だもん、すぐに終わると思う。……じゃあ、行ってくる____あ、あんまり見ないでね、」
そう言った嵐さんは、その場にしゃがみ自然な角度で前を見て、細い手指を複雑に絡め始めた。
それは初めて見る印だった。
水渦さんのともジャッキーさんのとも違う。
もっと繊細で、とても慎重で、控えめな印だった。
そう時間もかからず、手指は絡めたまま動きを止めたのだが……
あ……あれは……さっきのあの目だ。
斎藤様の家で見た、黒目だけがやたらと強調された光をなくした目。
その目になって十数秒、突如嵐さんの身体がガクッと揺れた。
「……嵐さん?」
小さな声で声を掛けるも聞こえていないかのような無反応。
顔の前で手をサササと動かしてみるが、これにも反応を示さない。
もしかして……今、嵐さんはネットの中にいるのかな……?
しゃがみこんだまま、眠りに落ちるように顔がだんだん下がってくる。
どうも意識がなさそうだけど……ダイブすると、こんなんなっちゃうんだ。
てかさコレ便利だけど危険じゃない?
これじゃあ霊力をネットワークに飛ばしてる間、生身の身体に何かあっても対応が遅れるんじゃないのかな。
ああ、そっか。
だから通常のネット回線と併用なのか。
これだと霊力を使ってダイブするには、時と場所を選ぶよね。
心配になった僕は辺りをキョロキョロ見渡した。
ココに生者はいないけど、もしも呪いのクマちゃんが現れたら、通りがかりの悪霊が現れたら、嵐さんを守れるのは僕しかいない。
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