第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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しゃがみこんだ(らん)さんは、小さく船を漕ぎだした。 パッと見、まんま居眠りだ。 とてもじゃないけどネットの大海を泳いでいるとは思えない。 霊力(ちから)ってホントに人それぞれだよね。 無防備な年下先輩霊媒師を守るべく(ま、なんにもないとは思うけど)、僕も(らん)さんの横にしゃがみむ……が、しかし。 最初の五分は気が張っていたのだが、視界に入るなんとも平和な光景についつい気持ちが緩んでしまう。 だってさ、フゴフゴ言いながら草の匂いを嗅ぐ猫又に、「マルコー」とか「ポーロー」とか言いながら歩きまわるキーマンさん。 見上げれば、背の高い木々の隙間から青空が、時折小鳥のさえずりが、蒸し暑かったはずなのに林の中は湿度も低くて爽やかで……あー、失敗したなぁ、レジャーシートとお弁当持って来れば良かったよ。 ここで三人とイチニャンでランチにしたら楽しそう……って、今、僕らって”呪いのクマちゃん”探しにきてるんだったよねぇ。 ほんわりのどかで仕事を忘れそうになっちゃうよ。 これはイカン、気を引き締めねばと思った矢先、大福先生が何かを咥えて僕の元にやってきた。 ちょっと何を咥えて……とよく見たら、やだっ! バッタじゃないの!? 甘噛みされた不幸なバッタは、ちっちゃな口から逃げようと必死に手足を動かしている。 大福は僕の目の前まで来ると、パカッとお口をオープンさせてバッタを落とし、可愛い前足でペッと押さえつけた。 『うなぁん』 「だ、大福さん? もしかしてこのバッタは僕へのプレゼントかな? かな?」 『うな』 アイター! 『うむ』って肯定しちゃったよ。 ううぅ……気持ちはありがたいけど、僕はもう大人なのでバッタいらない……それにバッタもかわいそう。 だけどせっかく大福が僕の為に持ってきてくれたんだ。 ここはまずお礼を言わねば。 「うわぁ、ありがとね! 遠慮なくいただくよ」 『うな』 ちょっと大げさに”ありがと”を言うと大福は満足そうに踵を返す。 その間にバッタの安否を確認すると……ヨシ、傷付いてはいないみたいだ。 僕は大福に聞こえないよう小さな声で「お逃げ」と言うと、バッタは草むら目掛けてピョンピョン跳ね去っていった……もうポッチャリ猫又に捕まるんじゃないぞ。 なんてコトをしていたら、いつの間にか(らん)さんが戻ってきていた。 伏せていた顔を上げ、僕と目が合うと「わっ! 近い!」と尻もちをつく。 「ご、ごめん! 驚かせちゃったよね。ダイブ中の(らん)さん、意識がなさそうで、なにかあったらマズイと思って傍にいたんだ」 謝りながら立ち上がり手を差し出すと、 「……そ、そっか、ボクを心配してくれたんだ……あ、ありがと」 小さな声で答えてくれつつ僕の手を掴んだので、そのまま上に引っ張り上げた。
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