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しゃがみこんだ嵐さんは、小さく船を漕ぎだした。
パッと見、まんま居眠りだ。
とてもじゃないけどネットの大海を泳いでいるとは思えない。
霊力ってホントに人それぞれだよね。
無防備な年下先輩霊媒師を守るべく(ま、なんにもないとは思うけど)、僕も嵐さんの横にしゃがみむ……が、しかし。
最初の五分は気が張っていたのだが、視界に入るなんとも平和な光景についつい気持ちが緩んでしまう。
だってさ、フゴフゴ言いながら草の匂いを嗅ぐ猫又に、「マルコー」とか「ポーロー」とか言いながら歩きまわるキーマンさん。
見上げれば、背の高い木々の隙間から青空が、時折小鳥のさえずりが、蒸し暑かったはずなのに林の中は湿度も低くて爽やかで……あー、失敗したなぁ、レジャーシートとお弁当持って来れば良かったよ。
ここで三人とイチニャンでランチにしたら楽しそう……って、今、僕らって”呪いのクマちゃん”探しにきてるんだったよねぇ。
ほんわりのどかで仕事を忘れそうになっちゃうよ。
これはイカン、気を引き締めねばと思った矢先、大福先生が何かを咥えて僕の元にやってきた。
ちょっと何を咥えて……とよく見たら、やだっ! バッタじゃないの!?
甘噛みされた不幸なバッタは、ちっちゃな口から逃げようと必死に手足を動かしている。
大福は僕の目の前まで来ると、パカッとお口をオープンさせてバッタを落とし、可愛い前足でペッと押さえつけた。
『うなぁん』
「だ、大福さん? もしかしてこのバッタは僕へのプレゼントかな? かな?」
『うな』
アイター! 『うむ』って肯定しちゃったよ。
ううぅ……気持ちはありがたいけど、僕はもう大人なのでバッタいらない……それにバッタもかわいそう。
だけどせっかく大福が僕の為に持ってきてくれたんだ。
ここはまずお礼を言わねば。
「うわぁ、ありがとね! 遠慮なくいただくよ」
『うな』
ちょっと大げさに”ありがと”を言うと大福は満足そうに踵を返す。
その間にバッタの安否を確認すると……ヨシ、傷付いてはいないみたいだ。
僕は大福に聞こえないよう小さな声で「お逃げ」と言うと、バッタは草むら目掛けてピョンピョン跳ね去っていった……もうポッチャリ猫又に捕まるんじゃないぞ。
なんてコトをしていたら、いつの間にか嵐さんが戻ってきていた。
伏せていた顔を上げ、僕と目が合うと「わっ! 近い!」と尻もちをつく。
「ご、ごめん! 驚かせちゃったよね。ダイブ中の嵐さん、意識がなさそうで、なにかあったらマズイと思って傍にいたんだ」
謝りながら立ち上がり手を差し出すと、
「……そ、そっか、ボクを心配してくれたんだ……あ、ありがと」
小さな声で答えてくれつつ僕の手を掴んだので、そのまま上に引っ張り上げた。
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