第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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「わーかーんーなーいー! なんで(らん)ちゃんの霊体がデータになっちゃうんだよー! なーんでそのデータが小包になっちゃうんだよー! ジャッキーがなに言ってるかイマイチわかんないんだけどー!」 しゃ、しゃべり方はカワイイのに、キレキレに日本刀を振り回す弥生さんが、わかんないって大騒ぎしだしたの。 その後ろで社長は黙っていたけど、やたらと身を乗り出してたから、やっぱりわかってなかったのかもしれない。 さわぐ弥生さんにジャッキーさんは溜息をついて…… 「あのな、霊体をデータだって言ったのはモノのたとえだ。そのまんま受け取るなよ。おまえだってネット使うだろ? わかんないか? ……って、わかりゃ騒がないよな。ん……弥生でもわかるたとえは……じゃあ、こう考えろ。ココにいる4人で飲みに行くとする。そこは持ち込みOKな飲み屋だからビールをケースで持っていく事にしたんだ。1ケースに瓶ビールが20本。なぁ、コレおまえ一人で運べるか?」 「ケースは無理だよ、デカイし重いし運べない。でもビールは飲みたい」 ジャッキーさんは「俺なら持てるぜ?」と言う社長に、はははと笑って弥生さんに続きを話したの。  「飲みたいか、自分もだ。ぜひ1ケース持ち込みたい。じゃあどうするかと言うと、1人でケースを持つんじゃなくて、1人5本ずつバラにして持っていくんだ。どうせ無理してケースを運ぼうとしたって、途中で力尽きてしまう。もしくは重くて落として中のビールが割れてしまうかもしれない。そうなれば飲み屋に運ぶ前にビールがダメになる。だから自分と弥生と社長と(らん)くんとで分けて持つ。これなら負担が減って飲み屋まで運べるだろ?」 「うん、運べる!」 「瓶ビール20本合わせたモノが(らん)くんの霊体と考えてみて。飲み屋はネットの世界、飲み屋までの道が(らん)くんの放った電流……その道を5本ずつ分けられたビールが運ばれる。ビールにたとえた直したが、(らん)くんがネットの世界に入り込んだのは、こういう経緯じゃないかって先代の仮説だ。……って、コレでなんとなくわかるか?」 「……あーはいはいはい……そーゆーコトか……うん! さっきよりはわかった!」 日本刀をブンブン振り回して「ヨシ! わかったトコロで今からみんなで飲みに行くぞー!」って歩き出す弥生さんにジャッキーさんは、「行くのはリアルに戻ってからだろ」って突っ込んでるし、社長はずっと「だから俺なら3ケースは持てるけど」ってそればっかり。 もう……話がどんどん脱線しちゃうの。 ボ、ボク……それがすごくおかしくて、また笑っちゃって、笑ったボクを見て、みんなも笑っちゃって……それで……なんだか泣きそうになったんだ。 だ、だって……そういうの……ボク初めてだったんだもの。 学生の頃も前の会社も、友達とか同僚とか……みんなでふざけて笑いあって……ってそういうの経験した事があんまりなくて…… 楽しいだけじゃない、みんながボクを助けようとしてくれるなんて……まるで夢みたいだなぁって。 しかも……ネットの中のみんなはデジキャラだから緊張しないでいられた。 リアルの世界みたいに、顔が赤くなってそれが気になってパニックになる事もなくて…… なんかね、リアルに帰れるかわからない状況だというのに、それでも……みんなが、”おくりび”の先輩達がいれば、怖くないかも……って思えたんだ。
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