第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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社長は満面の笑みだったそうだ。 『こんな事もあろうかと、途中で落ちてたのを拾っておいたんだ! (らん)! 良く見てろよ!』 そんなモンどこに落ちてたんすか! とまぁ、僕なら秒で突っ込むけれど、(らん)さんはポカンと眺めるしかなかったと言っていた。 社長が手にしているモノ、それは古びたフライパンだったという。 (らん)さんは、【マジカル陰陽師】って時代設定は戦国で、現代ではなかったハズ…… なんで戦国時代にフライパンが落ちてるの? これこそバグじゃなんじゃないのかな? と首を傾げた。 そんなコトを考えてる(らん)さんの目の前で、社長は両手でフライパンを掴むと、ぎこちなく首を鳴らし、そして、 『ダァッシャッ!!!』 グシャッ! まさに秒だったそうだ。 ちょっと前まで丸い形のフライパンが、両方向から加えられた圧倒的な力によって蛇腹にひしゃげ潰された。 それを後方に投げ捨てた社長は、これまたぎこちなくモストマスキュラーなポージングを取りながら雄叫びをあげ…… 『気合入ったぁぁ! なぁ(らん)、俺達は絶対(ぜってえ)おまえを助ける。だがその方法がわからねぇ。だけどよ、これ以上ウダウダ考えても答えは出ねぇよ。だから聞け! 俺が考えた良い案を! それはな、』 その時の(らん)さんは、社長の言ってる意味がよくわからなくて、なんでせっかく拾ったアイテム壊しちゃうんだろ……と、ゲーマー目線で疑問に思い、その奇行に目を丸くして、とりあえず、社長の“良い案”を聞いてみようと待っていたそうなのだが……って、えっ、ちょっ、なにこの既視感。 これとほぼ同じコト、つい二か月くらい前に僕もされたんだけど。 あれは入社してすぐの座学。 うまく放電が出来ない僕に向かって、目の前でフライパンを潰してみせた社長は『かかってこい!』と言ったんだ。 ____漫画でよくあるだろ?  ____潜在能力を秘めた主人公が、 ____追い詰められてもう駄目だってなった時に、 ____力が解放されるってシチュエーション!  ____俺はアレを狙ってる!  なんのこっちゃと思うより早く、構えを取られ攻撃された。 僕はビビりまくって決死の覚悟で……もちろん逃げたのだが、ハンパない危機感に晒された結果、放電が出来るようになったのだ。 あのふざけた訓練方法は(悔しいかな、効果はあったけど)僕で二回目だったのか。 少年ジャ〇プ式訓練、先に受けていたのは(らん)さんだった。 「ねぇ、(らん)さん。社長さ、フライパン潰したあと、(らん)さんに攻撃してこなかった? 潜在能力を引き出してやるとかなんとか言いながら」 僕がそう聞くと(らん)さんはすごく驚いて、 「お、岡村さん、霊視したの? 印も組んでないのにスゴイ……」 僕から目測2メートルほど距離を取り、さらには身体を横に向けた(らん)さんが驚いていた。 そうなのよね、彼は今、けっこう色々しゃべってくれる。 そのかしめっちゃ離れてるけど、でもいいの、無理させるならこれでいい。 「や、ごめ、今の霊視じゃない、てか霊視まだ出来ないし。違うんだ。僕もね、入社してすぐの座学で同じコトされたの。社長は、わざわざ古いフライパン持参して、素手で、目の前で、しかも秒で潰したの。あの時の顔……あはは、めっちゃ得意気だったよ」 当時は怖っ! って思ったけど、今となっては笑っちゃう。 きっとあのフライパン。 オウチで大和さんに「オヤジ! この古いフライパンもらっていいか?」とか聞いてたんじゃないかな。 大和さんは料理人だからね、勝手に持って行ったら大目玉を食らうだろうし。 「……え、え、え? 社長ってリアルでもフライパン潰したの? 素手で? ウソでしょ……?」 あ、そっか。 社長のフライパン潰し、見たのはゲームの中だったもんね。 まさかリアルでも潰すなんて思わないよねぇ。 僕も見た時、めちゃくちゃ引いたもの。
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